『少女ファニーと運命の旅』:子どもたちの目線で描いた戦時下逃走劇。冒険劇のような面白さもあるが、大人の顔色を伺いながら生きる子たちの姿はいつの時代も悲しい。。

少女ファニーと運命の旅

「少女ファニーと運命の旅」を観ました。

評価:★★★☆

1943年、ナチスドイツの脅威はヨーロッパに広がり、フランスもその支配下にあった。勝ち気さを内に秘めた13歳のユダヤ人の少女ファニーは幼い二人の妹と共に、協力者たちが秘かに運営する児童施設に匿われていた。ファニーの楽しみは検閲の目をくぐって届く母からの手紙と、夜中にベッドの中で父からもらったカメラのファインダーを覗いて楽しかった日々を思い出すことだ。ある日、心無い密告者の通報により、子供たちは別の協力者の施設に移らなくてはならなくなる。やっと落ち着いたと思ったのも束の間、その施設にもナチスの手が迫っていた。。監督は、「女の欲望に関する5章」のローラ・ドワイヨン。

いわゆるナチス迫害モノではあり、その中で生きてきた子どもたちを取り上げるというのも珍しくはないのですが、本作は子どもたちの目線に立って描かれているため、戦争映画という暗い背景はありながらも、どこか純粋にナチスという巨大な魔の手から逃れるような冒険劇のような風合いも呈しており、観ていてすごく引き込まれるドラマとなっているのです。同時に悲しく感じてしまうのが、まだ13歳という若さでありながら、リーダーとして大人の代わりに子どもたちをまとめ上げる立場に立たされた少女ファニーの姿。自分の頃を思えば、まだ13歳なんてガキそのもの。親や学校の先生など、周りの大人に頼ってしか生きていけない中、そんな大人たちの顔色や動向さえも気にして、この人なら大丈夫だろうとか、この人なら裏切らないかと即断していかないといけない。同時に、まだ子どもで生死の危険さえも分からない子たちを叱咤激励しながら、逃げていかないといけない。ファニーの苦しさはスクリーンから伝わってくる以上に、大変なものだったろうと思います。

作品としては、同じ戦時期を描いていた「ベル&セバスチャン」に登場するようなフランスからスイス国境に逃げていく際の、美しいアルプスの情景が目に焼き付きます。「ベル〜」のときも感じたのですが、捜索困難な雪山にまで兵を派遣して、なぜユダヤ人たちをどこまで捕らえなければならなかったのかというのが、今の視座から見ると疑問に思えてなりません。それだけ人種迫害というのを命題にしている全体主義の怖さに震えると共に、苦しい中でも生き抜いた彼ら彼女らの精神が、あのときとは別の困難な時代を生きる私たちに教えてくれるものもいろいろあるように思います。

次回レビュー予定は、「パンとバスと2度目のハツコイ」です。

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