『パンとバスと2度目のハツコイ』:淡い恋心が再燃していくちょっと大人な恋愛劇。ホンワカした雰囲気の中に、えらく現代的な恋愛観が凝縮されている傑作!

パンとバスと2度目のハツコイ

「パンとバスと2度目のハツコイ」を観ました。

評価:★★★★★

パン屋で働く市川ふみは、結婚に踏ん切りのつかない恋愛こじらせ女子。付き合っていた彼からプロポーズされるも、「私をずっと好きでいてもらえる自信もないし、ずっと好きでいられる自信もない」という独自の結婚観で断ってしまい、そんな彼とも疎遠になってしまった。そんな彼女の趣味は、仕事終わりに職場のパンを食べながら、近くのバス操車場でバスの洗車を眺めることくらい。そんなある日、彼女の中学時代の初恋相手であるたもつが、職場のパン屋にやってきた。彼は離婚した元妻のことを忘れらずにいるモヤモヤとした状態だった。学生時代より忘れていた淡い恋心が、小さくそして確実に再燃していくのだが。。2016年にアイドルグループ『乃木坂46』を卒業した深川麻衣の初主演作。「退屈な日々にさようならを」の今泉力哉監督が映し出した作品。

今年出始めで高評価した「ミッドナイト・バス」に引き続き、同じバスもので高評価した作品に出会えました(笑)。それも味わいとしては、あちらは家族劇で、本作は恋愛劇という違いはあるものの、同じような淡々とした描写の作品になっています。この独特の作品全体流れるゆったりとしたリズム感が、まずのどかでいいんですよね。京都の映画ではないですが、バス社会であり、そして喫茶店(カフェ含む)とパン屋さんの数では日本一といわれる京都に住んでいる者として、美味しそうなパンが出てくるのも楽しい(まぁ、パンだけあまりフューチャーはされていないですけど)。途中、パンやお菓子を作るシーンがあったりと、料理と映画という鉄板の組み合わせを作り出したり、朝活主体の今の自分にとって、パン屋の早い朝のシーンも結構味わい深かったりと、僕自身にとっても「かもめ食堂」的な心の琴線に触れるようなシーンが多くて、それだけでキュンキュンとしてしまう作品であったりするのです。

と、素敵なシーン満載という理由だけではなくて、恋愛映画としても少し独特な世界観を描いています。いわゆる初恋の人との再会から、恋が再び盛り上がるという展開のお話ではあるのですが、それは友情以上恋人未満というか、人を優しく思いやる気持ちというところにとどまっているのが、逆に少し大人な恋愛劇に仕立てられているなと感じるのです。それに主人公ふみの結婚観も独特ですが、いつまでも別れた女房のことを想いながら次の行動に出れない超草食系のたもつであったり、中学時代にふみに告白し、友人以上の感情をいだきながらも、今は子どもに愛情を注ぎまくっているさとみに象徴される同性愛観など、何だか出てくる恋愛のピースがちょっと現代的なのです。それでいて、それぞれのキャラクターがやはり恋に振り回される、すごくナイーブな配置になっており、各人にすごく共感してしまう要素もあるのです。無論、肉食系な人には些細なことでヤキモキしている彼らの行動は野暮ったさ以上なものはないのかもしれませんが(笑)。

それに一番驚いたのは、終盤に出てくるふみがたもつを自宅に誘うところでしょうか。実家から妹が居候できていると分かっていながら、素っ頓狂なまでに誘うふみもそうですが、ひょっこりと一夜を三人で過ごしてしまうたもつにも驚きます。ただ、普通なら出会うはずのない、出会わせるとドギマギするような関係でも同居できてしまう感覚というのが、本作に流れている現代の若者的感覚なのかもしれないな(同時に、自分はオッサンなんだな)と理解できるシーンで、本作の象徴のようにも感じます。この奇妙な3人劇は、「幕が上がる」のアイドルグループの舞台劇であったり、「ハルチカ」での音楽室での長回しシーンであったりと並ぶくらい、日本映画の中で突出した演出シーンの1つになっていると思いました。

次回レビュー予定は、「花筐/HANAGATAMI」です。

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