『祈りの幕が下りる時』:東野圭吾原作のTVシリーズ完結劇場版。2時間ドラマくらいのレベルかと思いきや、重厚感ある物語に脱帽した!

祈りの幕が下りる時

「祈りの幕が下りる時」を観ました。

評価:★★★☆

東京都葛飾区小菅にある古いアパートで、1人の謎の焼死体が発見される。被害者は、滋賀在住でハウスクリーニングの会社に務める押谷道子であり、焼かれる前に絞殺されていたことが判明する。殺害現場であるアパートの住人・越川睦夫も行方不明になっており、道子との接点もないまま、松宮たち警視庁・捜査一課の捜査も難航する。やがて、道子は同級生だった演出家・浅居博美を訪ねようと上京していたことが分かるが、博美も越川との接点はなかった。そんな中、松宮は事件現場であるアパートのすぐ近くで起こっていた、ホームレスの焼死体との関連を疑っていた。不可解な点が多く捜査が難航する中、ホームレスの遺品の中に、日本橋署刑事・加賀の亡母と繋がるものが見つかるのだった。。連続ドラマから始まった東野圭吾原作『新参者』シリーズの完結編。『下町ロケット』や『半沢直樹』など数多くのドラマを手がける福澤克雄が、第48回吉川英治文学賞を受賞した東野圭吾の同名ミステリーを映像化した作品。

東野圭吾といえば、もはや日本の文学ミステリー界を引っ張る巨匠であり、映画界でも数々の作品が映画化されています。その彼の原作フィルモグラフィーの中で、東野ミステリーの面白さを数話完結のショートストーリーにし、TVドラマでも人気を博したのが、本作に通じる「新参者」シリーズ。僕は最初に映画化された「新参者 麒麟の翼」から始まって、それからTVシリーズを見直したほうなのですが、謎多き刑事・加賀と彼とは親戚関係であり、新米刑事でもある松宮のコンビは面白いし、それ以上に東京下町を舞台にした人情ミステリーという構成も、単純な刑事推理モノに終わらない味わいの深さを楽しめた作品でした。本作で、シリーズ完結となるのはいささか残念ですが、完結にふさわしい厚みのある物語になっていると思います。

当初、予告編を観た段階では、TVシリーズものの劇場版にありがちな、大団円でうまく終結に持っていくだけの作品(2時間ドラマの拡大版)に過ぎないのかなと思いましたが、いい意味でこの予想を裏切っていきます。こうした推理モノには、犯罪に関わる人たちのエピソードがもちろん複数関わってくるのですが、その絡むキャラクターも多ければ、その1つ1つのエピソードもしっかり組み立てられているのです。根幹はミステリーなので話の内容には触れませんが、この各エピソードの厚みが玉ねぎの皮1つ1つのようにぎっしり集まって、作品全体に十分な厚みを生み出してくれる。序盤は、日本橋署から警視庁に移った(栄転した)松宮が1人でほぼ引っ張っていき、ホームレス焼死体のエピソードから加賀が本格的に絡む(一部、回想シーンで先行して登場する部分はあるものの)ようになるのですが、これもシリーズファンとしては松宮の成長が垣間見え、彼らがタッグを組んだ捜査が始まってから、犯人側の心情が1つ1つ見えてくるという推理劇としての面白さも出てくる。これはよく考えられている、ストーリー構成だと思います。

松宮を演じる溝端淳平は、(失礼ながら)あまりここ最近テレビでも、映画でも活躍の場が観られなかったように思うのですが、本シリーズの中では成長の軌跡が垣間見え、すごく役者としても成長感が感じられます。対する加賀を演じる阿部寛はもうベテランなのですが、本作では事件そのものにも絡んでくる重要なキャラにもなり、単純に刑事としての立場だけではない難しいところではあるのですが、ここを阿部寛がとてもよく好演しています。それに予告編段階から、犯人側のキャラとして博美を演じる松嶋菜々子も、演技自体は表面的なようで、その奥底に悲しい過去を持っているという設定を実は上手く演じていると思います。加賀の若き頃を演じる阿部寛のメイクが少し気持ち悪かったり(笑)、事件解明部分のサラッと流される及川光博演じる先生がもったいない使われ方をしているなど、気になる部分もなくはないのですが、期待以上の出来に素直に拍手を贈りたい作品になっています。

次回レビュー予定は、「デトロイト」です。

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