『IT/イット ”それ”が見えたら、終わり。』:キングの名作ホラーを大胆リメイク! 正直怖いホラーではないが、ホラーのテイストを堅実に守っているのが成功の鍵!

IT/イット ”それ”が見えたら終わり

「IT/イット ”それ”が見えたら、終わり。」を観ました。

評価:★★★☆

1988年、アメリカの静かな田舎町、突如相次いで児童が失踪する事件が発生する。内気な少年ビルの弟も、ある大雨の日に外出し、通りに夥しい血痕を残して姿を消してしまった。自分を責め、悲しみにくれるビルの前に“それ”は突如現れ、ビルは得体の知れない恐怖を抱え始める。しかも、その不思議な現象はビルだけではなかった。不良少年たちに標的にされているいじめられっ子も、”それ”に遭遇していた。同じく、自分の部屋や地下室、バスルーム、学校、図書館、倉庫など、町の中のあらゆる場所で、少年少女たちの前に姿を現す”それ”は、彼ら彼女らを恐怖の底に突き落としていた。しかし、その秘密を共有した彼らは”それ”に立ち向かうことを決意するのだが。。1991年のも映画製作された、スティーヴン・キングの小説『IT』を大胆にリメイク映画化。監督は「MAMA」のアンディ・ムスキエティ。

スーパーヒーローものや、スター・ウォーズなどの作品に席巻されるハリウッドのバジェット作において、今年ホラー映画で唯一どころか、ホラー映画として初の興収3億ドルを突破した本作。ちょうどバジェット作の合間にあった秋の端境期に公開されたものといえども、この成績はなかなか見事なものです。そして、日本でも満を持して公開され、アメリカでのヒットを受け継ぐような形で(アメリカほどではないものの)静かにヒットした本作。日本ではハリウッドホラーモノはなかなかヒットしないのですが、若者を中心にウケたのは、スプラッタ作品のように純粋に映像として恐ろしさを描くホラー映画の形と、ホラー映画のようでそうでないような少年少女映画(いわゆるジュブナイル的な要素)が鍵になっているのかなと観ていて思いました。まぁ、端的に言ってしまうと、ホラー映画の面白さはありながらも、本作は全然怖い作品ではないのです(笑)。

誰しもが通る子ども時代には、大人の今にはなかったものに対する怖さというのがあったと思います。僕の場合ですが、例えば、夕方の少し陽の傾いただけなのに、ほぼ暗くなる近所の神社の裏の森は怖かったし、同じくいつも薄暗い祖母の今は亡き家の納屋や納戸は怖くて、そこを通って暗い便所に行かないといけないなど、夏休みに泊まりにいったときは軽い肝試しでした(笑)。そうした大人には何気ない日常の風景の中にも、子ども目線で見ると見えていた、先が見えない不安だったり、妖怪や幽霊が出てきて引っ張り込まれるのではないかという物語から来る想像力的なところは、きっと万国共通なのかなと感じるところがあります。本作では、そうした何気ない恐怖が、実は本当にある実体化した恐怖だったら、、ということを描いていると思います。だからこそ、”それ”として体現してくるペニーワイズは、まさに七変化してくる恐怖の対象として映画の中にじっくりと君臨している。「ドリーム・キャッチャー」や「ミスト」など、目に見えないものの恐怖が、実体化したら本当に恐ろしいものだったというキング作品の真骨頂的なところが実にしっかりと描かれているのです。

ただ、何でも恐怖の対象になるペニーワイズは、ディズニーランドのミッキーのごとくに、とにかく何の恐怖にも変化していくバケモノとして描かれれば描かれるほど、その変化ぶりが恐ろしいというより滑稽に見えてくるのです。なので、子どもはどうだか分かりませんが、大人目線で見ると、恐怖に対峙しながらアドベンチャーをしていく少年少女たちの物語のほうが面白くなってきて、”それ”はもはや物語の味付けに過ぎなくなってくる。SNSでは「スタンド・バイ・ミー」のようだという感想も散見しましたが、あそこまでノスタルジックではないものの、何か通じているものがあるのは確かだと思います。でも、ホラー的な要素もちゃんとあるので楽しめないわけではない。本作が幅広くヒットしたのは、こうしたどの年代にもウケるようなミッキー的な中庸さがあるからなのでしょう。

次回レビュー予定は、「ギフテッド」です。

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