『ゴッホ 最期の手紙』:芸術作品としての表現方法は大変素晴らしいと思うけど、ゴッホの死というミステリーとしての物語のほうがなかなか頭に入ってこない。。

ゴッホ 最期の手紙

「ゴッホ 最期の手紙」を観ました。

評価:★★☆

日本語吹替え版にて。

郵便配達人ルーランの息子アルマンは、パリで一通の手紙を託される。それは父・ルーランの友人で自殺したゴッホが弟テオに宛てた手紙だった。アルマンはテオの消息を探したが、実は彼も既に亡くなっていることを知る。しかし同時に、ゴッホの死に関してある疑問が募ってくる。一体、彼の死はどのようだったのか。そして彼の最期の手紙は誰に託せばよいのか。。アヌシー国際アニメーション映画祭観客賞を受賞したサスペンス。ゴッホの絵画をモチーフに俳優が演じた映像を油絵で描き、全編動く油絵で構成された長編アニメーション作品。

画家という職業はアーティストの類の中で、なかなか評価されづらい仕事なのかなというのは今も昔も思います。その中で、ある意味、自身の死が謎と憶測を呼び、同時に画家その人との魅力にもなっている人といえば、日本でも人気が高いフィンセント・ファン・ゴッホその人でしょう。オランダで牧師の子として生まれ、一時期は聖職者の道を目指すものの、パリで多くのアーティストと交流した後に、ポスト印象派と呼ばれる独自の画法で20世紀以後の芸術表現でも多大な影響を与えました。彼の作品のイメージというと線や点で表現される画法と、温かみのある黄色をふんだんに使う印象なのですが、作品とは裏腹に彼の人物像となると恋人のために耳を削ぎ落とすなど、精神に不安定、内向性で気性が荒い、そして死のイメージもつきまとうという陰鬱なものです。その謎に満ちたゴッホの死に迫っているのが、本作なのです。

ミステリー調になっている物語自体は魅惑的なのですが、本作のもう1つの特徴になっているのが、ゴッホの数々の作品と彼の作調自体をアニメーションとして表現しているという異色な形式美でしょう。これは人それぞれだと思うのですが、静止画として見ると美しい彼の絵も、全体が動くアニメーションになると、途端に何か色酔いするような感覚を僕は受けてしまい、何か物語のほうに集中できなかったです。日本人はアニメには慣れているとは思うものの、1つ1つが美しい絵やデッサンになっている1つの絵が連続体として動いていくと、アニメーションという感覚以前に、表面に巨大なかさぶたがかかっているような印象が強いなと思いました。物語に合わせて、色味だったり、点画から油絵になったり、あるいはデッサン画に移ったりと、美術好きにはこの演出はたまらなく面白いと思うのですが、頭でその楽しさを理解しようというフィルタが働きすぎて、お話がなかなか頭に入ってこないという本末転倒な形になっていると思います。

動き1つ1つが多くのアーティストによって描かれているというのは、作品としては大変な苦労があるものだとは思うし、スケッチブックか画集を紐解くようなオープニングとクレジットのフレーム周りの動きも面白いんですけどね。。なかなか評価に困る作品でした(笑)。

次回レビュー予定は、「ジグソウ ソウ・レガシー」です。

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