『百日告別』:愛する者をいきなり失った男女、それぞれの別れのための百日間。日本人にも通じる死者への弔いと別れの心の変遷に胸がギュッとなる!

百日告別

「百日告別」を観ました。

評価:★★★☆

交通事故で出産を控えた妻を亡くしたユーウェイ。妻との幸せな生活と、新しく生まれる子どもを一変に失った彼は、事故の合同葬儀の会場で同じく婚約者を亡くしたシンミンと出会う。彼女も結婚を控えて、新しい生活への希望を一変に失い、同じく絶望した婚約者の家族にも冷たくあしらわれてしまっていた。互いの存在を知った2人は、悲しみから抜け出そうと、それぞれ旅に出るが。。カリーナ・ラムが台湾の金馬奨最優秀主演女優賞を受賞したドラマ。監督、脚本を務めるのは「九月に降る風」のトム・リン。

台湾映画ということで、割に日本に近い感覚で観れる作品になっています。それぞれに妻と、婚約者という幸せな生活を事故によって一変に失ってしまった者が、それぞれの喪失を埋めるための百日の心の旅。日本でも信教によって違うかもしれませんが、多くの仏式であれば、死者に対しては初七日や、四十九日など期間を設けながら、死者の魂を弔うとともに、遺された者にとっても、そうした失った者に対する想いを整理するという、文字通りの「告別(別れを告げる)」の形を取っています。この時間を取りながらも死者と対話し、思いを巡らす儀式を行っているのは素晴らしいなと思っています。なかなか、百日法要までする人は日本でも稀ですが、本作でも紹介されるように、この百日をもって、故人との別れの悲しみを断ち切る(「哭(な)くことから卒(しゅっ)する(=終わる)」)というのはなかなか遺された者にとっても、厳しい節目までを描いているのです。

お話としては何台も絡む、大きな交通事故に巻き込まれ、遺された2人の男女のその後を描いていますが、安易にぞれぞれの愛する者を失った同士が惹かれあうという話にはなっていないのです。むしろ、ユーウェイとシンミンの話は全く違う筋のお話として進んでいるといったほうがいいくらいです。その中で、2人が各々で、各々の方法で愛する者を自分の中から旅立たせる準備をする。ユーウェイにとってはピアノ教師だった妻の一面を追っていくことであり、シンミンは料理家であった婚約者との楽しみにしていた新婚旅行を1人で行くことだったりする。それぞれの旅の中で、全く知らなかった人々の出会いから改めて、愛する者のいないことを悟りながら、徐々にその面影からの別れを慈しんでいくのです。なので、葬儀場での何回か描かれる2人の出会いは、日を追うごとに少しずつ開放されていくような表情に変わっていくのを、よくカメラが捉えています。このアンニュイな空気感は台湾映画ならではと感じることができるのです。

それにしても驚いたのは、台湾の仏教寺院での読経シーン。日本とは違って小乗系でしょうが、日本の念仏と違って、リズム感がゴスペルのような音楽に近いものになっているのです。日本のお寺での読経も味わいがありますが、また違った仏教感にも少し興味が湧いてきました。

次回レビュー予定は、「未来よ、こんにちは」です。

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