『聖杯たちの騎士』:マリックらしい作風で映像もきれいだが、肝心の主人公の男に共感できない。。

聖杯たちの騎士

「聖杯たちの騎士」を観ました。

評価:★★

ハリウッドで成功をおさめ、手にした富で豪勢な日々を送る脚本家のリック。だが、同時に彼は、いつも果てることのない虚無感を抱え続けていた。彼は巡り合った6人の女たちとの愛の記憶をたどり、過去と向き合っていく。。「ツリー・オブ・ライフ」など詩的な映像を紡いできたテレンス・マリック監督のもと、名だたる俳優が集結したドラマ。

つい本作を観る前に、同じマリックのぶっ飛び作品「ボヤージュ・オブ・タイム」を観たばかりなので、この作品がすごくまともに見えました(笑)。というのは冗談として、本作は脚本家で堕落的な日々を送るリックを中心に、彼と出会う6人の女性たちを巡る物語となっています。あいもかわらずという形で、まともな劇映画ではなく、美しく奏でられる音楽、人の吐息を中心とした台詞と効果的なサウンド、そして何といっても詩的な巡りめく映像美で魅せていくというマリック作品らしい作風に彩られた作品になっています。出演している俳優も豪華。リック役には「ダークナイト」のクリスチャン・ベイルに、アントニオ・バンデラスも顔を出し、6人の女役にはケイト・ブランシェットやナタリー・ポートマンなども名を連ねます。役者たちにとっては、こういう短いシークエンスを繋いでいくマリック作品では腕の見せ所といったところでしょう。如何にその中で印象的で、映像に残るような役柄を演じていくか。役者たちの芸は十二分に堪能できると思います。

ただ、お話としては少し共感できない物語となっているのが辛い。お話としては、ハリウッドで成功を収めた一人の男が、生活面では何自由なく豪勢な生活を送れているものの、育ってきた家庭環境であったり、愛してきた女性の遍歴などを見ても、どこか過ぎゆく時間の中で大切なものを掴めていない。しかし、”聖杯たちの騎士”という題名からは、僕はリックという一人の男が苦しみながらも内在している男として、しっかり立脚したいという想いが込められている自立劇なのかと思いましたが、それに対して、やはりリックは悩みながらもなかなか自分自身を掴むことはない。こうした迷走していく男の悩みというのは、実に傍から見ていると少し贅沢な悩み(リック自身が破天荒な男ということもあり)にも思えてしまい、お話自体に共感することができないのです。マリックの作風は美しいし、出て来る女性たちも、彼女たちを取り巻く世界も本当に美しく描かれているんですが、何かその美しさがゆえに、何も心に残ることが逆にないのが痛い作品でもあると思います。

次回レビュー予定は、「モアナと伝説の海」です。

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