『海賊と呼ばれた男』:タイトルに関するエピソードが薄いのが残念だが、日本経営の真髄を知れる良作!経営を学ぶ者は必見!!

海賊とよばれた男

「海賊とよばれた男」を観ました。

評価:★★★☆

1911年、時代は大正に移ろうとしていた頃、国岡鐡造はエネルギーは石炭が全盛の時代から、いつかは石油に転換することを予想し、機械油を売る仕事を下関で始める。なかなか既存の商店の壁を打ち崩せなかった鐡造は、船に油を積み、航行する船に対して直売をしていく方法で販路を開拓していく。既存の商店の壁を打ち破った彼は、いつしか”海賊”と呼ばれるようになる。時代は移り変わり、太平洋戦争の敗戦後、石油販売を行う国岡商店を率いてきた鐡造は、日本人としての誇りを持ちながら、独自の哲学と行動力で戦後日本に勇気と希望を与える大事業を成し遂げてゆく。。百田尚樹の同名ベストセラー小説を「永遠の0」のコンビ、山崎貴監督・岡田准一主演で映画化した作品。

大ヒットベストセラーを映画化した作品。本は話題になっていることは知っていますが、原作は読んでいません。。映画版は原作と話の流れが一緒なのか分かりませんが、映画の主軸になる話は鐡造が60歳となる敗戦直後からの物語になり、サブキャラクターが登場したり、戦後の混迷期に国岡商店が再び石油販売を開始していくまでの苦難に関し、関連する過去のエピソードが回想劇としてフラッシュバックしていく形で描かれていきます。回想劇というのも悪くはないのですが、本作に関してはタイトルにもなっている「海賊と呼ばれた男」という、鐡造の経営手腕の豪快さが、回想劇の形をとることで過去のエピソードが少し薄くなっている印象が否めません。「海賊〜」といいながら、海のシーンがそれほど印象的に描かれないことで、タイトルと作品の内容の齟齬を感じてしまうのです。

ただ、本作に関しては、作品の評価を下げる要素はそれくらいで、あとは国岡鐡造という人物を中心に、産業を興していく豪腕経営家の人生を肌で感じることができます。仕事を通じて、それなりの経営者と呼ばれる人たちに会ってきましたが、ベンチャーを立ち上げた20〜40代くらいの若手経営者と、60代以降の経営者とは何か違いをずーっと感じていました。確かに若手経営者の人は頭は切れるし、いろんな新しいことを矢継ぎ早にやっていくことは長けているのですが、技術で心をつかめても、人として心を掴まれる人って、そんなにいないのです。一方、60代以上の社長や会長、顧問などで元気に仕事をしている経営者は、言っていることはイマイチチンプンカンプンでも、人の心をつかんで動かす技を持っている人が断然多い。これが経験とかの成せる技なのかもしれないですが、仕事に関連することだけでなく、教養もあり、何か信念みたいなものを持っていて、いつも見てくれている親父のような心深さもある。こういう人が、例えば社長としていると、何があってもついていこうと思わされる。昔流でいうと、奉公の精神というものなのかもしれないですが、こういうものを持っている経営者は強いなといつも思わされるのです。

本作でも、それが象徴的に描かれるのが、GHQから押し付けられた仕事を国岡商店が下請けとしてやらされるシーン。こういう嫌な仕事であっても、従業員に信念を持ってやらせることができる経営者というのは実に巧みです。大義があることを示し、常に現場へも足を運び、彼らを見守り、いたわり、鼓舞していくことを忘れない。当たり前のことかもしれないですが、その当たり前ができる人というのはなかなかいないのです。僕も、尊敬する経営者はいるのですが、彼の下で仕事をしていたときは”この人のためなら、どんな仕事でもしたい”と思わされました。きっとこういうことはMBAの教科書にも書いていないことでしょうが、実は組織のトップに立つという人には必要な要素だと思っています。鐡造の持った時代に対する先見性と技術に対するこだわりも含め、日本経営の真髄を学ぶにも、とても参考になる作品だと思います。

次回レビュー予定は、「A.I. love you」です。

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