『溺れるナイフ』:昨今では斬新な形の恋愛映画だけど、素晴らしい点がイマイチな点を補って、全体的には普通な作品になっている。。

溺れるナイフ

「溺れるナイフ」を観ました。

評価:★★☆

東京でモデルとして活躍していた美少女・夏芽は、ある日突然父の故郷に引っ越すことになる。東京でモデルをやっていた夏芽にとって、田舎での生活は刺激もなく、自分が欲求する「何か」から遠ざかってしまったことに失望すら感じていた。そんな中、引越し先の地元を取り仕切る神主一族の末裔で、跡取りであるコウと出会い、強烈に惹かれてゆく。。ジョージ朝倉の伝説的少女コミックを原作に、「おとぎ話みたい」の山戸結希が実写映画化した作品。

気のせいか、この2016年秋冬は少女漫画をモデルにした恋愛映画が例年より数多く公開されているように思います。恋愛映画(ラブ・ロマンスやラブ・コメディ)というジャンルは、自分は好きではあるのですが、特に中高から大学生までの学園モノは、日本・海外限らず、ある定型フォーマットというものがあって、それにあまりにハマりすぎると、(原作としてのお話の流れは違えども)同じような作品になってしまうのです。何の映画とはいいませんが、予告編を観るだけで、如何にもという作品もチラホラと見られ、そういう工夫を感じなさそうな作品は、このジャンルが如何に好きだといえども見たいとは思わないのが本音。そんな中で見た本作の予告編は、同じ中高生モノの恋愛映画とはいえども、他の作品とは違った作風を見せそうで期待感が高まっていました。

いやー、実にいいですね。本作の自由な雰囲気というか、中学生から高校生という設定ながら、学園恋愛映画に縛られない自由なフレームが、本作のいい特徴となっている部分だと思います。これは恋愛映画でありながら、学園モノにせず、田舎の地方で展開されるドラマとして撮っていることが成功しています。自然のダイナミックさ、主人公・夏芽が住むことになる実家の旅館やコウの神主としての家庭、そして田舎を盛り上げる要素になる祭りの描写など、どれも美しい田舎の情景をうまく捉えています。それもただ捉えるだけでなく、登場人物たちの動きに合わせて、”動く絵”にこだわった絵作りにしているのもいい。役者たちのダイナミックな動きを時には寄りで、時には思いっきり引きで見せ、映画らしいドラマチックさを映像で盛り上げていると思います。

ただ、そうした映像の素晴らしさに対して、肝心の夏芽の恋の部分がどうも納得いかない。夏芽に初めて関わったコウという男に惚れてしまうのは分からないでもないですが、夏芽とコウの距離感があまりに近すぎのように思えるのです。夏芽は何があろうが、コウにメロメロ。同級生の大友が”友人以上恋人未満”の優男のポジションで、夏芽との関係もいい距離感で進むのに、夏芽のあまりにコウへの入れ込みように少し白けてしまうのです。同じことが、コウと幼馴染のカナとの関係にもいえる。原作では分からないですが、このカナという人物が映画ではかなり印象が薄く、コウや夏芽のことをどう思っているのかイマイチ分からない。夏芽を窮地に追い込むので、夏芽にとっては悪女のような存在になるのかな、、、やはり、イマイチ彼女の存在も僕の中では腑に落ちないのです。

ですが、優男を演じた大友役の重岡大毅がなかなかの存在感。コウ役の菅田将暉はもう一流の役者であることは分かっていますが、この映画では彼に負けない迫力を魅せていると思います。

次回レビュー予定は、「種まく旅人 夢のつぎ木」です。

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