『コンカッション』:NFLに衝撃を与えた事件を映画化。丁寧なシークエンスの積み上げが光る地味な秀作!

コンカッション

「コンカッション」を観ました。

評価:★★★☆

ナイジェリアから夢を追ってアメリカに移住してきたオマルは、地区の検視官を務める真面目な医師。2005年のある日、変死したアメフトの元プロ選手マイク・ウェブスターの検視解剖に携わったオマルは、頭部へのタックルが原因となる脳の病気を発見し、そのことについて著した論文を発表する。しかし、その論文はアメリカのメジャースポーツを批判するものであり、NFLは全面的に否定する。やがて巨大な権力が、オマルとその周辺に圧力をかけていくのだが。。メガホンを取ったのは「パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間」でデビューした社会派ピーター・ランデズマン。

もう一時期ほどではありませんが、昔、ダラス・カウボーイズが強かったとき(今も強いのかは知りませんが、、)、アメフトはよく観ていました。きっかけは何かはよく覚えていませんが、ラグビーのルールがよく分からなくて、それと比較で見たアメフトがたまたまハマって観始めたように思います。セガのメガドライブでも、ゲームをやっていた記憶があるくらいです。そんなアメフトですが、頭部タックルの危険性はいろいろなところで言われています。本作の中でも言及されていますが、人間は他の動物に比べると、格段に処理機能が高く、繊細な脳を持っているのですが、頭蓋骨の構造などを見ても、自然から離れてしまったこともあり、その保護機能は他の動物よりも高くない。その中でアメフトに限らず、ボクシングや野球などでも、頭部への大きな衝撃が加わり、脳震盪などが起きれば、脳の司る機能が低下し、認知活動などの脳単体が処理する能力だけではなく、手足のしびれなど、身体に紐付いた機能も障害が起きてくるのです。日本野球でも、頭部へのデッドボールに対する対策はルールとして厳格化されつつあり、スポーツとしても考慮が必要なのですが、そうは問屋が卸さないという話が本作のテーマとなるところなのです。

本作の取り上げる内容は、確かアメリカの法廷ドラマでも取り上げられいるところを見たことがあるのですが、社会派のテーマとしてはなっても、本作の終わり方を見ても未だに大きな改善が見られないお話なのかと思います。脳腫瘍や脳出血などと違い、脳震盪やそれから派生する本作の慢性外傷性脳症(CT)のようなものは、レントゲンなどの検査で数値化できる結果として出てこないのが厄介なところ。もちろん、認知テストなどのような表層的な診断基準があるのかもしれないですが、本人が大丈夫と言ってしまえば、それで過ぎてしまうような問題なのです。NFLのようなプロスポーツ団体においても、ほぼ国技であり、スポーツビジネスとして文化となっているような競技なだけに、営利目的を考えると、何か制限を加えるようなことをしたくないのは正直なところ。大きなグレーゾーンをつくりながら、今日に至っている、、それが現状なのかなと思います。

なので、「マネーボール」でも同じことを感じましたが、画期的なことを発見し、選手たちの生命を守ろうとして動いたオマル医師の偉大さは分かるものの、根本的な問題は上記のように大きく解決されていないことに、本作のもどかしさがあるのです。「マネーボール」でもデータ野球を取り入れたアスレチックスはすごかったけど、彼らは優勝していないから、作品として終わらせ方にもどかしさがあったのと同じ感じがするのです。オマル医師を演じたウィル・スミスや、激太りで体当たり演技を魅せたデヴィッド・モースなどのアカデミー級クラスの演技も見られるのですが、本作から1つもアカデミー賞ノミネートに至らなかったのは、NFLとの微妙な関係もあったのかと勘ぐらざるを得ないほどの秀作だと思います。

次回レビュー予定は、「コウノトリ大作戦!」です。

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