『歌声にのった少年』:子どもの快活な演技が素晴らしい作品。だが、それを受け継ぐ後半部のまとまりのなさが鼻につく。。

歌声にのった少年

「歌声にのった少年」を観ました。

評価:★★

長きにわたり紛争が続き、今でも混迷を続けるパレスチナ・ガザ地区。この地で生まれ、スター歌手になって世界を変えたいと願う少年ムハンマドは勝ち気な姉ヌールに引っ張れれ、友人たちとともにバンドを結成する。お手製の楽器から、苦労して調達した楽器に変え、ようやくこれからといったとき、ヌールに重い腎臓の病が発覚する。ヌールは弟ムハンマドにいつか歌でスターになり、この地を出て行くことを約束させ、幼い命を落としてしまう。姉の死から数年後、青年になったムハンマドは亡くなった姉との約束を果たすため、ガザの壁を越えオーディション番組に出場しようとするのだが。。「パラダイス・ナウ」のハニ・アブ・アサド監督が、実在のパレスチナ人歌手を取り上げた人間ドラマ。

パレスチナ・ガザ地区というと、一頃よりは日本のニュースには聞かなくなったものの、今だ紛争の真っ只中にある国。異なる宗教の国が、それぞれの聖地を礎に国を建てているだけに、これからもこの地域のきな臭さというのは消えることはきっとないのでしょう。そうした複雑な地域を背景に、2013年にアメリカのオーディション番組『アメリカン・アイドル』の中東版『アラブ・アイドル』で、パレスチナの曲を歌い優勝したムハンマド・アッサーフをモデルにしている作品となっています。

まず、この作品でいいのは、なんと言っても、ムハンマドの幼年時代を描く子どもたちの快活さでしょう。中東、インドなどの西アジアや中国映画に至るまで、何かこの地域の複雑な国際情況とは裏腹に、子どもたちの純粋な笑顔というのは何をも吹き飛ばすほどのパワーを持っているな、といつも感じるのです。ムハンマド、ヌール、そしてバンドのメンバー2人と、ヌールが腎臓病を患った後に出会う同じ病気の少女、、この5人の子どもたちの自由な演技がすごくよく、作品の前半を疾風の如く通り過ぎる。この子ども時代の爽やかさがあるから、後半の大人になった後の物語も効果的に効いてくるのです。

といいながらも、後半の大人になったムハンマドがいよいよ夢を叶えようというところが、僕にはすごくリズム感が悪く感じました。大人になったムハンマドと、同じく成長した腎臓病の少女の出会いに関する部分は、子ども時代の快活な部分をいいリズムで受け継いでいると思うのですが、あとのバンドの友達2人や、音楽の師、両親がうまく物語に絡んでいないのです。また、オーディションの部分もどうでしょう。当時の映像も織り交ぜつつやっているのですが、俳優が演じているフィクション部分との構成がお世辞にも上手くいっていなく、出来の悪いパッチワークの作品を見ているような感じに襲われるのです。感動するラストも、このパッチワーク感が抜けきらず、複数の映像をごちゃ混ぜに使っていて収集がつかず、感動も大半減してしまっています。子ども時代のいい前半部があるだけに、すごく欲張りすぎた後半部が足を引っ張っているように見えてならない作品に感じてしまいました。

次回レビュー予定は、「何者」です。

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