『オーバー・フェンス』:佐藤泰志の函館叙景最終章。三部作の中では一番入っていけなかった少し残念な作品。。

オーバー・フェンス

「オーバー・フェンス」を観ました。

評価:★★☆

家庭を顧みず、妻に愛想をつかされた白岩は、故郷・函館に戻り職業訓練校に通う。函館に戻ったものの、毎日の生活は職業訓練学校との往復という惰性的な日々を送っていた。実家とも、学校の同級生とも距離を置き、人生を半ば諦めかけた彼が、風変わりなホステス・聡と出会い、急速に惹かれていく。。「海炭市叙景」「そこのみにて光輝く」に続く、佐藤泰志の小説を原作にした函館発信映画最終章。監督は「味園ユニバース」の山下敦弘。

函館を舞台にした佐藤泰志の短編小説を映画化した作品の第三弾。「海炭市叙景」にしても、「そこのみにて光輝く」にしても、スクリーンで拝見させていただきましたが、どちらも毎日が苦しい生活を強いられている底辺に生きる人々が、それぞれに掴んだ一枚(ひとひら)の幸せをつかもうともがく様が淡々と描かれていて、優しいカメラ映像とは裏腹に、笑顔の裏に見せる何ともいえない苦しさも見え隠れして、どちらも切ない作品の印象が残っています。そのシリーズの最終章となる作品は、今までの作品と少し毛色が違って、生活の苦しさというよりは、生きていくこと自体を少し絶望している男が主人公。この白岩という男は、見かけはどんな人とも上手くやっていきそうで、何も苦しみがないように見せているのですが、それがうえに内面をえぐり取られただろう過去が見えるのです。作品中には明確には描かれないですが、きっとどんな人でも差し障りなく交流することができ、東京での仕事もできたほうだったのでしょう。しかし、逆にできる男だったうえに、周りが過度に押しつぶされてしまった。それを守れなかったことに、白岩は人生すら絶望しているのです。

この白岩役にオダギリジョーを当てたことが、ポイントだと思います。彼のキャラクターも、どんな人に対しても柔和に受け入れるような雰囲気を持っている。これが白岩が持っていて、同時に苦しめられた才能だと思うのです。なので、白岩自身は周りに対して声はかけるものの、積極的に人を救おうとか、交わろうとはしない。そんな彼でも信じてみたくなったのは、彼の性格とは真逆のような聡であるというのも、作品としてはドラマチックになる効果を得ていると思います。自分の持つ感情のフルスロットルを全開にさせる聡は、僕から見ても関わりたくない迷惑タイプの女性。しかし、白岩にとっては何に対しても本気の感情を見せる聡こそ、自分が真剣に向かい合うことができる女性となっていくのです。

とはいいつつも、僕はこの函館三部作の中で、本作が一番入っていけなかったかな、、と思います。白岩は心に傷は抱えるものの、人生は何となく差し障りもなく生きれてしまっていることが、他の2つの底辺の生活に苦しむ主人公と違い、非常に生ぬるいものに見えてしまう。そんな見かけは普通の男が、破天荒な女性と付き合っていくような物語にしか見えず、心の奥底から強く湧き上がってくるような強い感情に揺さぶられないのが残念なところです。

次回レビュー予定は、「聲の形」です。

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