『教授のおかしな妄想殺人』:旅行も、殺人も、計画段階が一番楽しい!?

教授のおかしな妄想殺人

「教授のおかしな妄想殺人」を観ました。

評価:★★★

活動の拠点をNYからヨーロッパに移した後も精力的な活動を続けるウディ・アレン。毎年のように新作を発表する彼の新作は、孤独に無気力に生きてきた哲学の教授が、ある殺人をきっかけに人生を取り戻していくという異色のクライム・コメディ。アレン本人が登場することはもうなくなって久しいですが、今回の主演に迎えるのは個性派俳優のホアキン・フェニックス。ヒロインには、前作となる「マジック・イン・ムーンライト」に引き続き、エマ・ストーンが演じています。

アレンと言ったらコメディですが、そのコメディも、ラブ・ドラマや、クライム・サスペンスと合わさると、より一層にいいドラマのブレンド具合を魅せる気がします。特に、「マッチ・ポイント」以降、ここ数年のアレンのクライムドラマというのは、冴えに冴えているというか、単純に人を殺すというところにつきず、殺される側はもちろんのこと、殺す側も殺人後に徐々に追い詰められている感をカメラのフレーミングなどの工夫によって、観ているコチラ側もハラハラ・ドキドキ感を盛り上げてくれます。思えば、例えば60年代のクライム・サスペンスというのは、無駄なトリックなどは一切使わずに、殺人前後の登場人物のキャラクター像を見事にコントロールする作品が多かった。本作はそうしたクライム劇をよく研究した1つの成果(「マッチ・ポイント」ほどではないですが)が、よく出ています。

一方で、その殺人事件以前の、主人公エイブの回りで展開させられるドラマも一筋縄ではいかない面白さがあります。アレン映画らしい、ピリリと光る人間個性を持ったキャラクターはエイブだけではなく、殺人衝動を分析していくことになる生徒ジルのキャラクターにも見て取れます。彼女の家族も一筋縄ではないかないし、唯一普通なのは恋人くらいか、、という感じ。殺人という魅惑の美酒に酔っていくエイブの変化に対し、最初は個性的であったはずの周りの人々が徐々に普通に見えてくる可笑しさ。こんなことなら、殺人という事件ではなく、あくまでもお話として空想したほうがエイブにとっては幸せじゃなかったかと思うくらいです(笑 想像力豊かだからこそ起こしてしまう人間という生き物の悲喜こもごも。大作ではないですが、アレンのお話の回し方の上手さが光る小品となっています。

次回レビュー予定は、「エクス・マキナ」です。

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