『マイ・ファニー・レディ』:映画作りが分かっている巨匠の上手さが光る一作

マイ・ファニー・レディ

「マイ・ファニー・レディ」を観ました。

評価:★★★★☆

本格的な劇場長編は、2001年の「ブロンドと柩の謎」以来となるピーター・ボグダノビッチ監督によるコメディ作品。「ペーパー・ムーン」などが代表作ですが、僕は失礼ながらボグダノビッチ監督作品は初鑑賞。というか、失礼ながら名前も、作品も知りませんでした。そういう意味では何も身構えるものなく、正直な目線で鑑賞したのですが、2016年の初鑑賞で早くもすごく高評価できる形の作品になっています。冒頭は、ある女優のインタビュー映像から始まりますが、これが予告編にも登場してくる元娼婦で、今(インタビュー時点)では何かしらの形で女優になっている主人公。その主人公がどのような形でのし上がってきたかを、インタビューと過去とのフラッシュバックという形で描いていくのです。

よく「世間は広いようで狭い」といいますが、本作はそれをコメディとしてうまく表現しています。人は欲望のままに、ある人にはいい顔をして、その裏で別の人には別の顔をさらけ出す。しかし、巡り巡って、人の行いというのは最終的には自分に戻ってくる。会いたくない人に会ってしまったり、それとは別に自分に正直に生きていると、思わぬ所で幸運な出会いもある。本作でも別のエピソードにように描かれながら、実は別のところで違う人物とつながっていて、最終的には円環のように全ての出来事がつながっていく。あっちがたてば、こっちがたたず、そのドタバタの中で各キャラクターが右往左往する姿がおかしくて仕方がない。出てくる登場人物は少ないのに、映画を観た後には、いい映画を観た満足感で溢れる作品になっています。

主役の娼婦にきりきり舞いにさせられる映画監督をオーウェン・ウィルソンが好演しています。作品の舞台がニューヨークということもあり、作風もどこかウディ・アレン作品に似たような佇まいも感じますが、ウィルソンの使われ方でいうと、アレン監督作で、オーウェン・ウィルソン主演の「ミッドナイト・イン・パリ」で彼が演じたキャラクターとは、真逆なものになっていることが興味を覚えるところです。これがウディ・アレンと、ボグダノビッチ監督との感性の違いという感じですね。俳優陣はどれも素晴らしのですが、僕が好きなのはとことんマイナス志向な神経過敏なセラピストを演じたジェニファー・アニストンですかね。彼女の性格というか、彼女自身の生き様のような形のキャラクターに、久々に輝くアニストンの姿を垣間見れたように思います(笑)。

オシャレな人と、素敵な昼下がりにでも鑑賞したいタイプの、味のある作品です。

次回レビュー予定は、「フランス組曲」です。

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