『フランス組曲』:正統派戦争ラブロマンスながら、作品の力強さに圧倒される

フランス組曲

「フランス組曲」を観ました。

評価:★★★★★

アウシュビッツで短い生涯を終えた作家イレーヌ・ネミロフスキーの同名小説を映画化した作品。第二次大戦下の明日の分からない不安な未来の中、小説を書いていたということも凄いですが、収容所にて悲劇的な死を遂げた彼女の遺族が、彼女のこの未完小説が入ったトランクを開くことなく、60年ほどの年月にかけ、誰の目に触れることはなかったという歴史も凄い。そして何よりすごいのが、この物語が持つ壮大なまでの人間力が備わっている作品になっているということ。それを「ある公爵夫人の生涯」のソウル・ティブ監督が丁寧に、そして丹念に映画化している素晴らしい作品になっています。今年(2016年)に入って鑑賞2本目の作品ですが、早くも満点評価できる作品になっています。

戦争関係の映画を鑑賞したときの感想文ではもう何回も書いていますが、戦争というのは、戦いという中で人の死が社会によって許容されてしまう一種の異常な状態。それも戦勝国の論理がまかり通り、たとえ不条理な殺戮行為であっても、勝った側の論理でそれが正当化されてしまうのです。本作も、舞台となるのが第二次世界大戦下のフランス。パリがナチスにより陥落し、北フランスから一気にナチスがフランス併合を目指して、権力を拡大化させている時分を描いています。パリからの避難民とともに、街が慌ただしくなるフランス中部の街ビュシー。やがてナチスの侵攻とともに占拠される、この町で、フランス軍として出兵した夫の帰りを待つ女性リシュルと、占領下で街に赴任するドイツ人中尉ブルーノの2人のラブロマンスが物語の中心となっていきます。

戦争という異常な状態の中で、大地主として裕福な家庭に嫁いだリシュルの生活は、ナチスの侵攻とともに一変していきます。しかしそれは、彼女自身にとっては夫不在の中、厳格で気難しい義母との陰鬱な日常が戦争で壊され、いい意味で人として開放されていく面も兼ね備えているのです。フランスとしての誇り、占領するドイツへの服従、正義とは何かが混沌とする不安定な空気の中、人々の生活は不安定で心も歪んだものになってくる。その中で展開するリシュルとブルーノの恋というのは決して許されるものではないのだろうけど、気持ちも分からなくはないと思ってしまう。それはやはり翻ってみると、戦争がかき乱す邪気そのものなのかもしれません。この映画は決して大規模な銃撃戦が出てくるわけではないのですが、やはり戦争の影が物語をより際立たせる効果を生んだ戦争映画の1つになっているのです。

映画の後半、物語のクライマックスに向かうに当たり、主人公の2人だけではなく、義母や町長夫婦の物語など、それぞれ人物がそれぞれの場面で自らの正義を貫き、戦争を乗り越えていく。ある者はそれで命を散らし、ある者は後悔し、ある者は匿い、ある者は逃避行を図る、、、戦争が生み出す、一種の異常状態だからこそ、そこでの人間性というか、それぞれの生き方みたいなものに素直に感動できる傑作になっています。作風としてはやや正統派すぎる感じもしますが、ラブロマンスが苦手という方も、ヒューマンドラマとしても力強いメッセージを感じる本作を是非観て欲しいなと思います。

次回レビュー予定は、「ピンクとグレー」です。

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