『ディーパンの闘い』:社会派作品というより、三池崇史監督作のような天然爆発力がある作品。。

ディーパンの闘い

「ディーパンの闘い」を観ました。

評価:★★☆

昨年(2015年)の第68回カンヌ国際映画祭の最優秀作品賞であるパルム・ドール受賞作。内戦下のスリランカからフランスに難民として逃れるため、偽りの家族関係になった男と女、そして娘を加えた三人偽家族の物語。こうした物語構成を書くだけで、すごくドラマティックな展開を予見させるような作品なんですが、僕はラストがああいう形になっていくとは想像もつかなかった感じです。監督は、「預言者」のジャック・オディアール。

今、欧州は難民問題に揺れています。アフリカ、東欧、西アジアなどの内戦により、多くの難民が流入してきており、治安が悪くなるのはもとい、本来は国民のために使うような福祉などの国家サービスも難民のために使われ、不労者の増加で税収は上がらず、低所得者は仕事にあぶれる始末。本来であれば、フランスを始め、人種のるつぼとしての地域であり、宗教や人種を越えた自由革新の考え方が多かった欧州各国も、相次ぐ難民流入と不況経済の煽りを受け、各国に保守右派政党が躍進してくるという異常自体に。おまけに先日のベルギーでの大規模なテロ事件など、自由闊達であるべきEUの根幹を揺るがすような事件も続発していく。欧州から遠く離れた日本ではなかなか感じ取れないですが、欧州及び周辺各国に住む人々にとっては、どこに行っても危険で生き難い社会になっているのです。

そうした背景の中で、パルムドールに輝いた本作は、そうした欧州事情を切実に描いた作品になっています。これは欧州に生きる人々ではなく、逆の内戦地域から苦労して欧州に入りこんだ人々の目線になっていますが、希望溢れる未来の為に、自分を偽ってまで入った国であっても、そううまくいく現実はないというのが、何とも物悲しい。彼らが見たのは雑誌で、見たようなきらびやかなフランスではなく、不良たちがたむろし、ときに銃声も鳴り響く危険なスラム街。でも、祖国よりはマシと、偽りの家族であっても何とか生活をしていこうと奮闘していくさまが淡々と描かれます。偽りであっても、共に生きることで生まれたささやかな幸せ。しかし、それを引き離すような暴力が降りかかった時、主人公ディーパンの怒りが爆発するのです。

ラストはその怒りがすごい様で爆発します。序盤から中盤にかけて、地味に偽家族を守っていくために働く”ディーパンの闘い”なのかと思いましたが、文字通りの暴力が凄まじい勢いで爆発する”ディーパンの闘い”になっているので、あっけにとられるというか、思わず笑いがこみ上げてくるような(シーンとしては、失礼な表現かもしれないですが、、)作品になっていました。こうした展開の切替えと、すごい暴力の描写力も見どころではあるのですが、これがパルムドールに相応しい作品かと問われると少し微妙。もう少し社会的な意義・意味合いにも、踏み込んだ作品になって欲しかったかなと思ってしまいました。

次回レビュー予定は、「サウルの息子」です。

コメントを残す