『希望のかなた』:異なる立場で置かれた人生の岐路に立つ2人の男の物語。人生が流転するのも、好転するのも、人との出会いだと痛感する作品!

希望のかなた

「希望のかなた」を観ました。

評価:★★★☆

フィンランドの首都ヘルシンキ。港に停泊している船の石炭の山の中から、一人の青年が這い出してくる。彼はシリアから逃れてきた難民のカーリド。フィンランド政府に対して難民申請をすると同時に、生き別れの妹を探すために奔走する。一方、ヘルシンキで衣類のセールスをしているヴィクストロムは、冴えない仕事と酒浸りの妻との生活に嫌気がさしていた。何も言わず自宅に結婚指輪を残して、愛車とともに家を出た彼は売り物のシャツをすべて売ったお金を元手にポーカーにすべてを注ぎ込み、念願だったレストランオーナーとして、人生の新たな門出を向かえようとしていた。ところが買い上げたレストランは、やる気のない従業員がとんでもなく質素な料理しか出せない店。戸惑いながらも、心温かい従業員に囲まれて、ヴィクストロムはようやく自分の居場所を発見していく。そんな中、難民に対する差別や暴力に晒され、難民申請すら却下されたカーリドは強制送還される前に脱走し、ヴィクストロムと出会う。やがて彼の店で働き始めることになるのだが。。2017年ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞したアキ・カウリスマキ監督作。

大好きな映画監督作品だと、あらすじを追う前にまず観てみようと自然となってしまうのですが、本作の監督アキ・カウリスマキもそんな名だたる人の1人に含まれています。映画ファンならご存知と思いますが、彼の作風はすごく独特。登場するキャラクターに喜怒哀楽の表情がほとんどないのです。ほぼ同じような表情を見せながら、愛らしい台詞を吐露したり、冗談を言ったり、奇妙な行動を見せたりする。とかく、SNS全盛期の今は人の第一印象をすごく重視したがるのですが、人の面白いところって、見た目は怖そうな人でも冗談を言ったり、根暗そうな人が実はすごくひょうきんだったり、人の内面が言動に現れたりするところにあったりすると思うのです。よく感想文でもキャラクターという言葉を安易に使ったりしますが、その人を表現するのは顔がいいとか、背が高いなんていう、見た目の要素はほんの一部に過ぎない。どういうことを知っていて、どういうところに興味や得意な素質があって、もっている感情を人に対してどう表していくのか、、そういう一挙手一投足を見て、初めてその人を少し理解したと言えるのかなと思います。カウリスマキは自分の映画の中で、そういう挑戦をいつもしていると観ていて思わされるのです。

本作はシリア難民のカーリドと、脱サラして人生に再起をかけるヴィクストロムという2つのストーリーが、序盤は並行して描かれていきます。カーリドの物語は難民として逃れてきた彼の過去や、ヘルシンキで生きる今でも難民に向けた差別や暴力など暗い一面が多いのですが、逆にヴィクストロムのほうはマンネリ化していて、決して満足いく生活じゃなかったところを、自分の力で人生を好転させていく明るいキャラクターに描かれていきます。実人生でもそうなんですが、人生でも貧乏であったり、差別やいじめなどで苦労を抱えながらも、前向きに生きて人生を変えた人というのは、いい意味で人生を明るく捉えていて、その光に周りも自然と活気を与えてくれるような存在になったりします。本作のヴィクストロムもまさにそんな存在。カーリドが彼に出会ったことで、苦労しながらも何とか頑張って生きてきたことに、大きな明るい未来が彼の存在でよりよく開けてくるのです。つくづく人生には出会いが大事だということに気づかされるのです。

それにしても、ヴィクストロムが買い上げたレストランの面々がすごく可笑しく、愛らしい存在なので面白くて仕方ない。全力でボケの演技をしてくる職場なんて、毎日はすごく楽しいだろうなと思います。売上が上がらないから、流行りの日本食レストランをしてみようと思ってしまうところは抱腹絶倒。日本の懐メロを効果的に使うほど、日本好きなカウリスマキの偏愛も観れる作品になっています。

次回レビュー予定は、「アバウト・レイ 16歳の決断」です。

コメントを残す