『しあわせな人生の選択』:長年の友人の死に支度を手伝う至福で日常的な4日間。何気ない日常の中にも、素晴らしい友情と愛情が潜んでいることを発見させてくれる傑作!

しあわせな人生の選択

「しあわせな人生の選択」を観ました。

評価:★★★★★

カナダに住んでいるトマスはスペイン在住の長年の友人フリアンを訪ねる。フリアンのいとこのパウラから、彼が肺がんに冒されていて、余命幾ばくもないことを聞かされていたからだった。既に治療を諦め、最後の瞬間までの生活を考えているフリアン。そんな諦めた彼の態度を戒めながらも、意地でも4日間フリアンのもとに滞在すると言い張るトマス。説教ばかりしているトマスを疎んじながらも、しぶしぶ滞在を認めたフリアンは、愛犬トルーマンの新しい飼い主探し、遠く離れて勉学に勤しむ息子に会いに行くなど、死に支度をトマスとともに始めていくのだった。末期がんに侵された男性と周囲の者たちとの最期の日々を追い、スペインのゴヤ賞で作品賞はじめ5冠に輝いたドラマ。セスク・ゲイ監督は、自身の母親の闘病生活での体験をもとに制作した作品。

長年の友人の死に支度に、4日間を共に寄り添いながら生きていくというお話。別に、この4日間でフリアンが死ぬわけではないので、あくまでトマスが4日間という人生の一瞬を寄り添っているに過ぎない。いや、この何もなさそうで、何かが起きるような4日間が実に至福なときなんですよね。こうした死を間近に控えたお涙頂戴モノや、似たジャンルで難病モノとかもそうなんですが、とにかく悲しい悲しいということをロマンチック過ぎるほどの甘いメロディと演出で盛り上げようとするのですが、本作はそんなことは一切何もしない。むしろ、音楽なんて全くないような日常をただただ淡々と見せていく。フリアンも時たま苦しそうな表情を見せたりするところもありますが、それよりも死という文字通りのデットラインを引かれながらも、普通に生きている一人間として生きている様が描かれていきます。人生って、何もしないでも生まれるし、何もしないでも死んでいく、、当人や友人・家族にとっては一大事なんでしょうが、日常と変わりない一瞬でもある。そんなものだと、僕は思うのです。

それにしても、トマスとフリアンの友情の形がすごくいいんですよね。ちょっと同性愛っぽい密な関係も匂わすシーンもありながらも、ある一定距離以上は踏み込まない距離があるような関係にも感じられる。男性同士と女性同士って、どこか友情の描かれ方が違うように思うのですが、本作を観た男性陣は、彼らの友情が凄く羨ましく、そして尊敬できる関係だと思われるんじゃないでしょうか(逆に、女性同士の友情なら、同じ友の死を扱った「マイ・ベスト・フレンド」が女性陣には共感できるかもしれませんが)。そして、あくまで4日間を濃密に過ごしながらも、4日が経てば、またそれぞれが元の日常に戻っていく。フリアンがトマスに対して送った、最後の驚くべきプレゼントは、きっと彼らがまたもう一度会えることを示唆しているようにも思います。遠く離れていても、多分、それは現世とあの世という関係でも、2人の男の友情は消えることはないと感じる一作でした。

次回レビュー予定は、「ガーディアンズ」です。

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