『マンチェスター・バイ・ザ・シー』:マンチェスターの静かな港町に投影される傷ついた男の心の変遷。何も特に起こらないことがすごく心地よい!

マンチェスター・バイ・ザ・シー

「マンチェスター・バイ・ザ・シー」を観ました。

評価:★★★★

ボストン郊外でアパートの便利屋として働くリー。彼はある日、生まれ故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに住む兄が倒れたとの連絡を受ける。リーは車を飛ばして戻るが、彼が着く1時間前に兄は亡くなっていた。今後のことを医師や友人のジョージと相談し、一路兄の息子で、リーの甥になる16歳のパトリックがホッケーの練習をしているコートに迎えに行く。生まれ故郷を車で行き交いながら、リーは兄との思い出と、リーがこの故郷を離れることになった過去の悲劇に思いを巡らしていた。兄の弔いを終え、いち早く故郷を離れたかったリーではあったが、兄の遺言を紐解くと、パトリックの後見人にリーを指名していたのだった。。今年(2017年)の第89回アカデミー賞主演男優賞、脚本賞を受賞したヒューマンドラマ。監督・脚本は、「ギャング・オブ・ニューヨーク」脚本のケネス・ロナーガン。

どんなジャンルの映画でも、そこにはいろいろな出来事が展開され、そこに一喜一憂する楽しみがあると思いますが、本作はなんというか、全く”無”ともいえるくらいに物事が起きません。確かに兄の死であったり、リーが故郷で遭遇した悲劇というのはダイナミックな出来事なのかもしれないですが、それ以外はまるでなにもないような日常がただただ淡々と映し出されるだけ。。集中力がないと寝てしまうかもしれませんが、僕は、この静かなマンチェスター・バイ・ザ・シーという場所に結構釘付けになり、この淡々と進むドラマに逆に心を奪われました。別に何か風景が美しいというわけではなくても、なにかのどかな田舎町に行ったときに、ボーッとして過ごせるような至福なときがあると思いますが、この映画のゆったりとした時間の流れというのはまさにそれに似ているかもしれません。マンチェスターの厳しい冬の風景に、ゆったりと人の情というのものが移ろいゆく姿も何か映画としての美しさをも感じるのです。

ゆったりとした作品ではありますが、だからこそ、主人公リーの内に秘めたいた過去の悲劇的な出来事と、その過去を封印するかのように、自分という存在を抹殺して息を殺して生きているような今の姿が胸に迫ってくるのです。インサートされる過去のドラマと、兄の死から動いていく現実のドラマの織り交ぜ方も絶妙。リーの心の情景と、それを象徴する過去の物語がゆっくりと紡がれていくのです。アカデミー賞主演男優賞を獲得したケイシー・アフレックは今まで脇役の人が持つような独特な透明人間感が強かったのですが、その味わいが本作のリーという何を考えているのか分からないリーというキャラクターにピッタリと重なっています。全体的に静かな作品ですが、ピカイチの味が光るオススメ作です。

次回レビュー予定は、「ダブル・ミンツ」です。

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