『ジュリエッタ』:一人の女性に起こった悲喜劇を濃縮して描く。アルモドバルの映画として魅せる技が詰まった一作!

ジュリエッタ

「ジュリエッタ」を観ました。

評価:★★★★

スペインのマドリードに住むジュリエッタには、彼女を愛してくれる恋人ロレンソに打ち明けることができない過去の苦悩が合った。それは12年前、突然理由もなく姿を消した娘がいたのだ。12年の時を経て、新たな再出発を図ろうとしていたジュリエッタだったが、街で偶然会った娘の昔の友達に、娘を見かけたと告げられた。その一言に彼女は、封印していた過去と向き合うことになる。ノーベル賞作家アリス・マンローによる3編の短編小説を、「オール・アバウト・マイ・マザー」のペドロ・アルモドバルが映画化したヒューマンドラマ。

スペインの巨匠アルモドバルによる作品。彼の作品は、どの作品でも1つの作品の中でドラマティックにいろいろな物事が起こる。本作でも、3つの短編を組み合わさって作っているからもしれないですが、ジュリエッタの若き頃の出会い、出会った男の家族、ジュリエッタの娘アンジェリカに起きたこと、そして、様々な出来事からジュリエッタ自身が感じる喪失などなど、1時間30分強の短めな上映時間に濃密なくらいのドラマが展開するのだ。それもスペイン語のせかせた口調で、登場人物の状況報告だけで済ませてしまうエピソードもあるので、少し見逃すとあれとあれがどうなったんだっけ?と物語を見失ってしまう。それでも楽しめるところが凄いが、全てを味わおうと思うと、二度三度見るごとに違う味わいを感じられるのも、彼の作品の魅力的な部分でもあるのです。

そんな目まぐるしく、いろんなことが起こりすぎると、ともすれば非常に薄っぺらいお話になってしまいそうなんですが、主要な登場人物を絞り、その人物を巡る物語とすることで、映画としてのフォーカスをずれさせないのが、彼の味となっている部分でもあるのです。本作は「ジュリエッタ」というタイトル通りに、一人の女性に集約した物語に帰着させている。それに工夫があるのが、その他の脇役となる人物たちも見た目からして一癖も二癖もありそうなビジュアルの人物(ジュリエッタが若き時に出会った男の家に務める家政婦とかが典型)を起用し、通りすぎてしまうようなお話をしっかりと映像でピン留めしていくのを忘れないこと。アルモドバルらしい原色を多用した舞台や衣装、そしてカメラワークも絶妙の一言。映画は物語だけでなく、映像も重要な演出要素であることを、彼の作品を見ると再認識させられるのです。

実は、本作を観たときは少々疲れていて、前半はボーッとしてしまい、ところどころエピソードが抜けてしまっているのですが、それでも全て見通すと、1つの映画作品をみた満足感に浸れるのはなかなか。抜けたエピソードの部分も、きっと今後見返すことでまた違った味わいで楽しむことができるだろうと、今から別の期待をしてしまっている自分がいます(笑)。アルモドバルは現在の映画界においても、いろいろな物語をどう映画として魅せるかを分かっている杞憂な監督の一人だと思います。

次回レビュー予定は、「機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅳ 運命の前夜」です。

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