『愛しき人生のつくりかた』:この邦題は久々のヒット! まさに「愛しき人生」が描かれる作品!!

愛しき人生のつくりかた

「愛しき人生のつくりかた」を観ました。

評価:★★★★

夫に先出された1人の老女が姿を消し、彼女の孫が探し出していく過程で、彼女と自分自身の人生を見つめ直していくという形を変えたロード&ファミリー・ムービー。失踪する老女を、フランスの国民的歌手アニー・コルディが演じていることでもフランスでは話題になっていますが、単館系の中でも日本ではあまり注目を浴びていない作品。フランス映画らしいというか、とても映画的な演出を冒頭とラストの対比で魅せていて、映画としても、ドラマとしても見応えがある作品になっています。

全体的に強いモチーフが登場しなく、淡々と描かれるタイプの作品ではありますが、その中でも印象的に映るのが、失踪する老女マドレーヌ、マドレーヌの一人息子で心配症のミシェル、ミシェルの息子で若々しさが溢れるロマン、この三世代がそれぞれに抱える思い出、不安、夢が、それぞれの人生に置いてかけがえのない宝物のように描かれていることでしょう。それらが単純にお年寄りは過去ばかり振り返り、若者が夢ばかり見ているという閉じた構図ではなく、それぞれが交じり合うことで、マドレーヌも夢を見、ロマンも人生を省みたりする。そう、この映画に世代間の断絶はないのです。それぞれが抱えるものを互いに共有しあっていくことで、人生はいくつも彩られていくことを描いているのです。こんなことはそんじょそこらの小手先ではできないこと。これを意図も簡単にやってのけるからこそ、フランス映画の奥深さを感じるのです。

観ていて、本当に些細なことでも人生は美しくなるんだということがよく分かります。そりゃ家族だから迷惑をかけることもあるだろうけども、人の人生なんて迷惑をかけてなんぼ。互いが尊敬し合い、いろんな手を借りながら自分の人生を彩っていくことがむしろ大事なのです。いいなーと思うのは、ロマンがマドレーヌを見つけ出し、彼女を学校へ行くのを助けたり、そこで愛おしい出会いもあり、酔いどれの中に酒場で老女と踊り出すのもいい。それをロマンの同居人が携帯越しに軽くけなすところも最高。軽やかに人生を愛でながら、笑いながら、過ごしていく。誰もが過ごしたい”愛しき人生”とはまさにこんな形でしょう(この邦題も最高!!)。自分とは真逆な生活が描かれるので、こうした映画を見ているとすごく気持ちよく元気にさせられます。

この映画に足りないのは、あまりにあっさりとし過ぎていることでしょう。あっさりとした中に、すごいことがたくさん施されているのですが、それをも気づかないくらいなのです。キラキラとした日差しが偲ぶ日曜日の昼下がりのような美しい映画です。

次回レビュー予定は、「ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります」です。

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