『関ヶ原』:天下分け目に至るまでの歴史的変遷をダイナミックな映像で描ききる。戦い前の描写が多すぎて、ややドラマが薄くなってしまっている。。

関ヶ原

「関ヶ原」を観ました。

評価:★★★

1600年、戦国史上最大の天下分け目の決戦“関ヶ原の戦い”。その後の天下の行く末を決める戦いは、開始からわずか6時間で終結した。有利と言われた西軍を率いる石田三成は、亡き太閤殿下の意思を継ぎ、日増しに権力を拡げる徳川家に対抗し、豊臣家の再興を願っていた。軍勢としては数に劣っていた徳川家康率いる東軍になぜ負けたのか? そして、忍び・初芽との許されない恋の行方を描いていく。。司馬遼太郎の同名小説を「日本のいちばん長い日」の原田眞人が映画化した作品。

昨年(2016年)のNHK大河ドラマ「真田丸」でもそうでしたが、近年、石田三成のイメージというのが見直されてきていると思います。戦国時代末期のその後の時代の行方を左右した2つの事件といえば、信長が討たれた”本能寺の変”と、家康が天下を実質的な掌握下に収めた”関ヶ原の戦い”というものが出てきます。後の天下を収めていく秀吉や家康が善のイメージになっていくのに対し、明智光秀や石田三成というのは悪となっていくのは敗軍の将として仕方のないことだと思います。でも、時勢と意思だけで進んだ感がある光秀に対し、三成は豊臣家への忠義と同時に、持ち前の才覚を十二分に活かして、戦いの策略という意味では家康を凌駕するチャンスはいくらでもあったように思えるのです。事実、ただ数の上の戦略としては、1600年10月21日に関ヶ原で対峙した軍勢としては優勢であり、戦いの序盤は西軍のほうが押していた。でも、家康が巧みに展開した調略で、戦いの終盤からは一発逆転のカードが次々の展開され、長期戦になると思われた戦いはわずか6時間で集結をしてしまった。その劇的な展開を本作では巧みな物語展開術で描いていきます。

鑑賞前は今までの原田監督作品(前作の「日本のいちばん長い日」や、「突入せよ!「あさま山荘」事件」など)から見るに、きっと”関ヶ原の戦い”という長い一日をじっくりと描く作品かと思いきや、秀吉が亡くなる前の、秀次事件の頃まで遡って、三成がどのような状況で挙兵していったかを描いていくのです。司馬遼太郎の原作小説の影響や、三成と初芽の出会いを盛り込みたいので、こうした戦い前をじっくり組み立てていく必要があるのでしょうが、映画には尺があり、どうしても歴史劇をダイジェストに見せられて、肝心の戦いの部分が終盤にすごく圧縮されて描かれてしまったのが残念。原田監督らしい、情報量をギュッと詰めた上でのダイナミックなドラマ展開はなかなかですが、どうしても長い歴史の変遷を1つのシークエンスに収めてしまうので、ドラマとしては味の薄いものになっているように思います。せっかく冒頭は、関ヶ原の直前から描いているのであれば、戦いにフォーカスして、そこに至るまでの人間関係をフラッシュバックで描いてもよかったように思えます。

ただ、歴史好きの観点から見ると、家康と三成の対立を、北政所を中心とした尾張もの(東軍)と、淀殿を中心とした近江もの(西軍)で描くところは面白かった。信長以降、人望を重視する尾張・三河出身(現在の愛知県)の古来の者たちと、近江商人など有能な人物を多く排出する近江出身(現在の滋賀県)者とは、確かに今のそれぞれの県民性を考えると、すごく真逆な感じが(個人的には)してしまい、こういう文化的な衝突の意味合いも関ヶ原にはあったのかもしれないですね。

次回レビュー予定は、「カーズ/クロスロード」です。

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