『海よりもまだ深く』:家族の中でも、何か不思議な力が働く男と女の関係

海よりもまだ深く

「海よりもまだ深く」を観ました。

評価:★★★☆

「そして父になる」、「海街diary」の是枝裕和監督が、「歩いても 歩いても」、「奇跡」についで阿部寛と組む作品。是枝監督というのはつかみどころのないというか、いい意味でモノトーンな色のない作品を作る人なのですが、演じる役者によって監督の紡ぎだす真っ白なキャンバスに、役者がそれぞれ色を出していく、、本作はそんな典型のような作品に思えました。「海街diary」に引き続き、夏色を出した作品というのも、公開された季節にピッタリと来るようにも感じます。

主演の阿部寛と組む、共演の母親役に樹木希林、そして夏の味わいを感じる作品ということで、2007年公開の「歩いても 歩いても」にとても似通った作品になっています。それでも本作は父が不在ということと、阿部寛のキャラクターが少し弱くて、逆に、真木よう子、小林聡美演じる女性陣が樹木希林と絶妙な演技合戦を魅せるところがいい。そう、この映画は母、姉、そして元嫁と女の力がとても強く、それを阿部寛演じる良多が一気に引き受けるという、男性目線でいうと男の力が弱い作品として描かれるのです。しかし、そこでポイントとなってくるのが、良多の息子という存在。昔の文学賞の栄光をいつまでも追い、日銭稼ぎの探偵稼業もそろそろ切羽詰まってきて、女どもに家族の中で立場がなくなる彼であっても、息子の前にだけは父性を立派に張ろうとする。そんな男の立派でも、どこかか弱い一面を愛おしく描くのが、本作のいい味わいになっているのです。

それにしても男の意地の張りようというのは、何となく、それを見守る女の上でコントロールされていそうな感じがしますよね。それが母性というものなのかもしれないですが、そうした男の意地が未来を作り、結局は女もそれに引っ張られる。男と女の関係というのは年齢が違おうが、母と息子、姉と弟、夫と嫁と、複雑な持ちつ持たれつの関係になっているのです。これも何となく見ていて不思議な男女の関係だと思いました。それにしても、ラストの台風のシーンは何ともいい。特に、これが、、っという力強さがある作品ではないですが、全体的にいい人間関係を描いた温かい作品になっています。

次回レビュー予定は、「デッドプール」です。

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