『64 前編』:刑事ドラマといいながら、官僚劇、、というより、もっと古典的な国盗り合戦のような組織バトル!

64 前編

「64 前編」を観ました。

評価:★★★☆

横山秀夫のベストセラーで、TVドラマとしても映像化された同名作を、「ヘヴンズストーリー」の瀬々敬久監督が2部作として映画化した作品。「ちはやふる」と同じく、前編の感想文を書いている現段階(2016年6月)では後編も観てしまっているのですが、あくまで前編の感想をまずは書きたいと思います。主演は、最近では中堅からベテラン俳優の域に達してきた佐藤浩市。

原作は未読ですし、「64」の物語にしても、TVドラマ等々の作品を観ずに、ストーリーとしても初見という形で初めて観らせてもらいました。横山秀夫作品というと「半落ち」のように、犯罪と人間ドラマが巧みに交錯していくというイメージでしたが、本作も昭和64年と平成元年という間に取り残された、1件の少女誘拐殺人事件にかかわっていく人々の人間ドラマが非常に熱い形で描かれていきます。特に、前編となる本作では、警察という組織のあまりに官僚化した点が強く印象に残りました。同じ警察内の組織でも、警務部広報室に広報官として勤める主役の三上に対し、刑事部、警務部、人事にはてまた、本庁と地方との対立も物凄い形で描かれます。もうこれは官僚体制というのを通り越して、江戸時代以前の国取物語、はてまたヤクザのシマの争い、そうしたものを彷彿とさせます。その中で、肝心の誘拐殺人事件そのものが埋もれていってしまう。そのことを浮き彫りにするのが、前編のテーマとなっているように思います。

そうした警察内の組織間の対立、また記者クラブと広報室との確執など様々な物語を描きながら、事件そのものだけでなく、事件に捜査員として関わっていった人々が押しつぶされていくのが凄く物悲しい。彼ら彼女らの苦しい心の闇が、後編の事件への伏線となっていくのですが、そのドラマ全体が盛り上がるのも、前編で苦しみの部分をしっかり描けているからだと思います。テーマも、人間ドラマも重いものですが、全体的な味わいがライトに感じるのも不思議な感じがします。映画らしいドラマティックさは豊富なのですが、作品の重厚さを求める人には少々物足りない感がするかもしれません。

次回レビュー予定は、「山河ノスタルジア」です。

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