『ルーム』:美しく綺麗な作品ではあるが、もう少し人間臭い要素が欲しい!

ルーム

「ルーム」を観ました。

評価:★★★★

長年監禁されてきて、子どもはその監禁部屋で生まれ、外の世界を知らない。。そんな母子が苦心の上に部屋を脱出するものの、外の世界の喧騒にも悩まされる苦悩と葛藤を描いたドラマ。主演のブリー・ラーソンが本作で、今年(2016年)のアカデミー賞主演女優賞に輝いた作品。監督は「FRANK フランク」のレニー・アブラハムソン。

予告編から、監禁生活という異常な状態からへの脱出劇という緊迫したサスペンスをも織交ぜた形の人間ドラマ(イメージにあったのは「ゴーン・ガール」)かと思いましたが、むしろ、そうした不自由な状態から解放されていく母子の心理描写を中心に描いている作品となっています。本作でいいなと思うのは、各シークエンス毎に登場するドラマ空間が、そのまま母子の心理的な想い(感情)という部分と連動していくところ。監禁生活では、外の世界に出られない我が子に不自由をさせまいと、狭い空間がまるで全世界のように毎日の楽しさを、母親が苦心して生み出していく。その中で、子ども・ジャックも精一杯背伸びをしながら成長していく様が、実に微笑ましい。状況は異常かつ過酷ですが、逆にいつも母親の苦心して紡ぎだす世界の中で、ジャックはその愛情に包まれて生きていたのです。そこから病院、母親の実家と脱出していく。監禁生活ではジャックのために苦心した母親も、十代から監禁されたというまだ子どもといっても年齢。解放されたことで、今度は彼女の心が塞いでいく。逆に外の世界を知らなかったジャックは、いろんな世界に触れながら、やっと人との関わりを学び成長していく。。そうした様々な”場(空間)”を経ながら、母子の関係が変わっていく描写も面白いところです。

ただ、何でしょう、いい意味で非常にアーティスティック、悪い意味で全体が美しくまとまりすぎているような気がしてなりません。特に、ジャックは監禁生活まではいいものの、外の世界を知らなかったということの発狂さは相当なものだと思うのですが、監禁生活後はむしろ母親に焦点が移りすぎていて、ジャックの描き方が少々不足気味になっているように思えます。監禁、外の世界、犯人、マスコミ等々、いろいろドラマの核となりうる要素は多いのに、それらの出来事と母子に少し距離を置かせているのが、イマイチなところだと思います。彼らが如何に苦悩して、再生していくのかに、もう少し心揺さぶられるような人間臭い要素が欲しかった。「FRANK フランク」でもまとまりあるドラマ作りには定評があるアブラハムソン監督ですが、心の琴線に触れる作品作りをして欲しいと感じてしまった作品でした。

次回レビュー予定は、「スポットライト 世紀のスクープ」です。

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