『殿、利息でござる!』:新感覚、時代劇金融映画! 大絶賛!誉める点が多すぎて、書ききれないくらいの傑作!!

殿、利息でござる

「殿、利息でござる!」を観ました。

評価:★★★★★

映画感想文が貯まっているのですが、思いもよらぬ良かった作品なので、先行して配信します。

江戸時代中期、仙台藩の中にあって、生活に困窮している世帯が多い宿場町・吉岡宿(吉岡藩)。それもこれも、藩が参勤交代等で行う人馬の手配を全て宿の役として課税を行うという、不都合な制度にあった。そこで宿場町の穀田屋十兵衛と、知恵者の菅原屋篤平治が考え出したのが、町で千両を用立て、それを貨幣に窮している藩に貸し、その利息をもって伝馬役の費用にあてがうという起死回生の策。お上に銭を貸すという奇抜なアイディアを実行に移すべく、秘密裏に動いていた画策が、やがて町の民たちを巻き込む一大事に発展していく、、というお話。原作は、「武士の家計簿」の原作者・磯田道史の評伝『無私の日本人』の一編を使ったもので、監督は東北・仙台を舞台にした作品を数多く出している中村義洋監督が手がけています。

予告編を見る限りでは、ドタバタ騒動を描く時代劇コメディという感じかなと思いましたが、これがすごくいい意味で裏切られました。ジャンル的には、今年「マネー・ショート」という経済・金融というジャンルを扱った作品がありましたが、銭のこととはいいながら、公共投資を考えているというところでは、そのような金融映画に通じる要素が強く感じることができます。そこに日本人らしい人情を織り込まれた落語的な要素もあり、様々な人々の思惑が錯綜していく群像劇の要素もあり、なおかつ阿部サダヲや瑛太などの一流の役者陣の掛け合いを楽しめるコメディ要素もあるという、本当に笑えて泣ける映画。今年上半期の邦画は「リップヴァンウィンクルの花嫁」で決まりかと思っていましたが、いやいやこの作品のほうもなかなかという出来に仕上がっています。こんな時代劇は見たことない。本当にオススメな作品になっているのです。

そもそも、”お金”というのはたくさん持っていればいいというわけではなくて、使う術を把握したうえで、効率的に回していくことが個人にとっても、社会にとってもよりよいことだと思っています。だからこそ、”お金”は”労力や時間と交換できる財”であるという認識を強く持つべきではないかと思うのです。個人でも、世の中のいろんなことができると思うのですが、手っ取り早く済ませるには”お金”と交換すればいい。同じように社会という単位で見ても、困っている状況があったり、未来に可能性を見出して、そこに財を投入すれば問題が解決され、世の中がよりよく回り、いずれは自分へ良い循環が戻ってくる。これが”投資”の原点であると思うのです。まだ、そういった”お金”の考え方が疎かった江戸時代にあって、気が付かぬ間にこうした先進的なことをしていた吉岡の人々。なかなか明治以前の庶民の生活を知ることが難しい現代ですが、こうした映画を通じて、過去の日本人たちの考え方に学ぶというもの重要なことかと思います。

それに加えていいのが、そうした”お金”のことを扱っていながら、”所詮、お金はお金に過ぎない”と人情話がふんだんに盛り込まれていることでしょう。それも単に1つのエピソードだけでなく、町全体、出てくるキャラクター一人一人にそうした”愛すべき日本人の姿”がうまく投影されているのです。これに何度泣かされることか。特にいいのが、十兵衛の父親、先代の浅野屋のエピソードでしょうか。冒頭に何気ないシークエンスがあるのですが、これが見事に伏線になって、後半のドラマが活きてくる。思えばベタな演出ですが、人情話としては、こうしたベタさが思わず泣けてくる、いい要素になっているのです。それに友情出演となっている、フィギュアスケーター・羽生結弦の殿様ぶりも、浮世離れしている彼のキャラクターにピッタリとハマっている。出てくるシーンは少ないですが、彼もいい映画の要素になっているのです。

と、こう書き出すと誉めるところ満載になるくらい、素晴らしい傑作だと思います。やや安っぽい映画パッケージがいささか残念ですが、これも映画宣伝側の画策なのではないかとも思ってしまいます(笑)。原作となる「無私の日本人」も素晴らしい著書なので、映画を気に入られた方は、是非読んでみてください。

次回は溜まっている映画レビューに戻ります。。「ルーム ROOM」です。

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