『ジェンダー・マリアージュ 全米を揺るがした同性婚裁判』:いろんなことを考えさせられるが、ドキュメンタリーとしてはやや単調。。

ジェンダー・マリアージュ

「ジェンダー・マリアージュ 全米を揺るがした同性婚裁判」を観ました。

評価:★★☆

2008年、アメリカ・カリフォルニア州で合法化されていた同性による婚姻制度が州憲法修正案『提案8号』によって禁止されたの有効性を巡り、5年もの長き間戦われた訴訟を追ったドキュメンタリー。サンダンス映画祭やアカデミー賞のノミネートリストに入るなどのアメリカでは話題になった作品ですが、日本ではクラウドファウンティング(インターネット上の募金・投資による仕組み)によってようやく公開となった作品でもあります。それでも公開規模がいささか小さいのは残念ですが。。

映画感想文の中でも何回か触れていますが、日本のこれからというのは価値観が多様化する社会に如何に適応し、世界の中でのイニシアティブを取っていくかにあります。日本をはじめとした先進国は高度成長も止まり、次に大きく伸び行く産業も見つからないまま、経済的には(リーマンショックなどはありつつも)豊かな安定期に入ったといえます。右肩上がりで成長していた時代は、皆が同じ夢を持ち、中産階級が増え、家庭をもって、家族を増やすというのが当たり前の構図でしたが、安定期に入ると、社会が伸び行く方向が混とんとし、皆が同じ価値観をもつことが難しくなってきます。こうした多様な価値観をもった人々が混在して生きる時代に、人種や宗教、そして本作のような性向の違いも含め、どう私たちの生活を豊かにし、社会全体としてよりよい形にしていくのかというのは結構難しい問題なのです。同性婚の制度というのは残念ながら、そのもっとも象徴的なものであり、同性愛者の価値観を今までの婚姻という社会の制度とどう位置づけをとるかの問題になってくる。これは単純に、結婚をする二人の問題だけでは済まされないのです。

僕自身は結婚する二人がハッピーになるのなら、社会全体にとってもいいことだし、ハッピーハッピーで進めればいいのではないかと個人的には思っています。ただ、結婚することが単純に二人が結ばれることの社会的認知に過ぎないんであれば、それほど無理して同性婚という制度を進めなくてもいいとも思うのです。結婚の意味が例えば、所得扶養の問題であったりすると、従来は一方が女性で出産や子育て、家事などで社会的に補助しなければならないことに対応しているんであれば、そもそも男性同士のカップルにはそういった考えは必要なのかとか、女性同士のカップルで双方とも精子提供で出産する場合はどうするのか、などいろいろなことを想定しなければならない。そうすると、そもそも結婚することとは何なのかというのが、従来の結婚が定義していたものから大きく見直さないといけないのではないか、、そこまで考えた上で、同性婚というものを考えなければいけないと思うのです。これこそ一方的な見方だけでなく、政治の中でも多くの価値観を持った人が話し合い、社会の形をつくっていかないといけないのです。

本作は、同性愛を認知する世界の中では先進をいくアメリカで、同性婚をいち早く認めたカリフォルニア州で起こった出来事を追っていきます。日本でもニュースで話題となりましたが、制度化された直後に「提案8号」によって、同性婚の制度自体が禁止されたことは知りませんでした。しかし、そうした社会的な出来事にも負けず、2組のカップルが結婚を再び合法化すべく、同性愛者の中でも先んじて矢面に立ちながら、新しい世界を切り開いていったのは単純に凄いことだと思います。日本では同性愛の慣習は古くからあったり、テレビを中心にいわゆるオネエ系の同性愛者が認知されてきているものの、社会としてはマイノリティの域を出ないのは、やはりこうした制度に対する議論が深められない(特に、マイノリティ側が主張すべき)場が少ないことを感じてしまいます。それは文化として、同性愛に限らず、マイノリティをどこか恥と思う感情みたいなものがあって、多数派が意識をしない限りは主張すべき空気感を与えてくれないことに起因しているのはないかと思います。同性婚がどうのこうのと言う前に、こうした前提が社会の基盤としてまずないことに少し残念な思いをいだかざるを得ませんでした。

こうした、いろんな考えを想起してくれる作品ですが、ドキュメンタリー作品として捉えると、ややニュースドキュメンタリーのような堅い形の作品となっていて、もう少し感情を揺さぶるような作り込みが欲しかったところです。でも、こうした海の向こうで起きている事実を、私たちとしてどう捉え、社会の中で活かしていくか、考えるにはうってつけな作品のように思います。

次回レビュー予定は、「オートマタ」です。

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