『永遠のジャンゴ』:伝説となったジャズギタリストの隠された反戦記。私たちの知らない歴史の一面を垣間見れる貴重な作品!

永遠のジャンゴ

「永遠のジャンゴ」を観ました。

評価:★★★

1943年、ナチス・ドイツ占領下のフランス。ホールを連日満員にしていたジプシー出身のジャズギタリスト、ジャンゴ・ラインハルト。パリでもっとも華やかなミュージックホール、フォリー・ベルジェールに出演、その華麗なパフォーマンスで満員の観客を沸かせていた。彼の人気に目をつけたナチスは、彼をプロパガンダに利用しようと、ドイツ・ベルリンでの公演を画策する。その公演にはナチスの宣伝相のゲッペルスや、ヒトラー総統も来るかもしれないという。自分がプロパガンダに利用されることを意に介せないジャンゴは、「俺たちはジプシーとして、俺たちの音楽を演奏するまでさ」とうそぶくが、ドイツ軍の動きに精通している恋人のルイーズから、フランスの国内外でジプシーたちが迫害を受けていることを知らされるのだった。。ジプシーの血を引く伝説的ジャズギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトの真実に迫る人間ドラマ。「大統領の料理人」「チャップリンからの贈り物」の脚本家エチエンヌ・コマールの監督デビュー作となります。

毎年夏に近づくと、なぜか戦争ものが多くなってきます。日本も戦後70年をとうに超え、第二次世界大戦自体も過去の出来事から、徐々に歴史の一ページになろうとしています。その中で、ホロコーストというとナチスによるユダヤ人迫害のみが取り上げられやすいのですが(まぁ、ユダヤ人の母数が多いのと、ハリウッド自体がユダヤ人中心の社会から成っていることもあるので)、ファシズムという全体主義の中で、ユダヤ人と同じように迫害を受けたのが、同性愛者の人たちであったり、障害者の人たちであったり、本作で取り上げられているジプシーの人々であったりすることを忘れてはいけません。ジプシーというとヨーロッパの流浪の民という定義で、ユダヤ人ほど明確な血の定義があるわけではないですが、全体主義という社会では国の区別なく流れていくだけの彼らの存在は、生産力のない疎ましい人々と蔑まれるような傾向があったのでしょう。スペインのフラメンコなどのルーツともいわれるロマの音楽はすごく熱く、ジプシー映画を多く扱っているエミール・クストリッツァ作品を見てもよく分かる。ちょうど、今この感想文を書いているときに、ある国会議員の不届きな発言が世間を騒がせていますが、単純に生きるということだけでも、社会にとっては大きな貢献になることは本作を観ても力強く感じるのです。

アレン映画好きな人には、ラインハルトというとアレンの「ギター弾きの恋」という作品を思い出しますが、あちらはジャンゴに憧れた男の甘い恋物語だったのに対し、本作はジャンゴその人がギターだけではなく、人々を鼓舞するような熱い音楽を、ナチスという巨大な組織に対して音楽で立ち向かっていた猛者であったことが深々と伝わってきます。後半のスリリングな脱出劇はもしかしたらフィクションなのかもしれないですが、実際にナチスに利用されようとした中でも、自分の音楽に反体制の強いメッセージを込めたのは事実だと思います。音楽という中で合っても、他のどの分野においても、自分の仕事に魂をこめれる人ほど美しい姿はありません。

次回レビュー予定は、「子どもが教えてくれたこと」です。

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