「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」を観ました。
評価:★★★★★
カナダ東部の小さな町。町はずれで魚の行商を営むエベレットは一人暮らしの身で、手間のかかる家のことを任せるための家政婦を募集していた。その張り紙を見て応募してきたのは、子どもの頃から重いリウマチを患い、両親が亡き後に、厳格な叔母の家で窮屈に暮らしていたモード・ルイスという女性だった。厄介者で居場所をなくしていたルイスだったが、唯一の楽しみだったのは絵を描くこと。住み込みの家政婦としてエベレットの家で、暮らし始めたモードは仕事である家事の傍ら、小屋の壁に絵を描き始める。ぶっきらぼうなエベレットだが、モードへの優しさは人一倍だった2人はやがて結婚する。そんなある日、ニューヨークから来ていたサンドラは、モードが壁に描いたニワトリの絵を見てその才能を見抜くのだが。。カナダの実在の画家、モード・ルイスの伝記映画。監督は、「荊の城」のアシュリング・ウォルシュ。
実在の人物を扱った伝記映画ですが、お話の中身だけではなく、映画全体でモードの絵の風景や情景を存分に楽しめるアート映画でした。映画の中で、サリー・ホーキンス演じるルイスがエベレットに責め立てながらも、彼をとりなしつつ絵を自宅にどんどん描いていくのですが、実際にそれが1つのアートとして、現在はカナダの美術館に小屋ごと移築されて展示されているとか。映画に出てくる小屋はセットだと分かるのですが、それでも2人が仲睦まじく暮らし、そして、ルイスの息遣いをも感じるアートになっていく様はなかなか見事です。僕はもちろん美術館で見るアートも好きなのですが、それ以上に、人が自然の中で表現し、それを日常の中で肌で感じられるアートが何倍もいいなーと感じます。訳の分からない現代アートではなく、日常であり、その延長線にある息遣いを感じるモードの作品は、見ていてホントに虜にさせられました。
それに映画の中でも、例えば、2人が行商や町への用事でカナダの田舎道を歩いていく様など、画角といい、映像というフィルターを通して、スクリーンそのものがもう絵になっているのです。2016年に見た「五日物語」も、特に引きの画でスクリーンがアートになるような構成の美しい作品でしたが、その意味では本作も負けていない。ルネサンスな「五日物語」に対して、素朴な後期印象派的な本作ですが、エベレットとルイスの愛の物語も含め、このカナダの田舎の美しさが胸に迫ってくるのです。これもいい。
サリー・ホーキンスは今年(2017年)のアカデミーでは、「シェイプ・オブ・ウォーター」で発声できない女性を演じ、アカデミー賞ノミネートを勝ち取りましたが、それよりも本作の演技や「パディントン」シリーズのほうが断然素晴らしい(笑)。我が強いイーサン・ホークも本作では脇に徹し、それでも頑固で、意志の強いエベレットという男を好演しています。あまり注目度が高くなかった本作ですが、意外な感動をもらえた快作でした。
次回レビュー予定は、「15時17分、パリ行き」です。