「YARN 人生を彩る糸」を観ました。
評価:★★★
糸を編むことを通じて表現する4組のアーティストの活動を追ったクラフト・アート・ドキュメンタリー。全身ニット集団と街を闊歩、糸を使ったパフォーマンスなど、個性的なアーティストたちが、その活動から“YARN”=糸に人生そのものを見出してゆく。メガホンを取ったのは、アニメーターとして活躍し、これが長編初監督となるアイスランド出身のウナ・ローレンツェン。
アートというものは理性を超える。芸術というと、とかく難しそうと思えてなりませんが、僕は美術館に行っても、ギャラリーにぷらっと立ち寄っても、はてまた京都のお土産屋さんや雑貨店などを覗いても、いいモノを分かる目はないけども、なんとなく自分の感覚にあっているものを鑑賞するし、購入するなら、お財布と相談して(笑)、自分らしいものをチョイスしたりしています。映画でもそうですが、なんとか技法が云々とか、歴史的には何だとかというお題目は、そのモノが好きになってから楽しむウンチクだと思います。京都に観光に来る方も多いと思いますが、観光ガイドや雑誌に乗っているウンチクを信じるより、寺社仏閣でも、街カフェでも、自分に合う空間をまずは見つけると楽しいかなと思います。そこから歴史を紐解いていくことで、更にそこが好きになる。カメラやガイド本は横において、まずは空間なり、空気を楽しんで欲しい(僕も、それで好きになったほうなんで)と思います。
さて、いきなり話はそれましたが、本作は日常的なニット編みが、クラフト・アートに昇華させたアーティストたちを追ったドキュメンタリー。面白いなと思うのが、”編む”という作業が衣食住でも最初に来る、衣を中心にしている生活作業でありながら、工夫次第では感覚に訴えかけるアート作品になるというところ。ファッションはまさにそういう分野なのですが、本作に登場してくるアーティストは、例えば、ココ・シャネルのようなデザイナーではなく、”編む”という手作業から生み出す感覚を大切にしているように思えるのです。そうした”編む”作業から、人が着るニットだけではなく、柱や壁が着飾られるアートになることで、単純な絵とは違った、より人の生活感に近いアートになってくるのです。暖かさというと表現が陳腐ですが、まさに人、もっと広げれば生物に寄り添ったアートにも見て取れる。アートと言うと、敷居が高そうですが、こうした生活感が逆にアートが担う役割を如実にさせてくれているとも思います。
予告編にも出てきますが、水の中を泳ぐ人魚スーツになったり、空間を子どもたちが自由に闊歩できる遊具になったりと、ニットの可能性は無限大ですね。本作を観ていると、ニット編みに少し挑戦したくなってきます。
次回レビュー予定は、「羊の木」です。