『麦秋 4K上映』:現代社会の姿も少し暗示させる小津監督の代表作。少し単調なキライもあるが、撮影感覚は独特で面白い。

麦秋

「麦秋 4k上映」を観ました。

評価:★★★

間宮周吉は北鎌倉に住む植物学者。息子の康一は医者で東京の某病院に通勤、娘・紀子は丸ノ内の貿易会社の専務・佐竹宗太郎の秘書として働いている。佐竹の行きつけの築地の料亭「田むら」の娘・アヤは紀子と学校時代からの親友で、二人とも未婚であるが、同じく級友の安田高子と高梨マリはすでに結婚していた。なので、4人が顔を合せると、未婚組と既婚組とに対立する。折から間宮家へは周吉の長兄・茂吉が大和の本家より上京して来たが、紀子の結婚談が出てくる。同時に、佐竹も自分の先輩の真鍋という男との縁談をすすめるのだった。。世界で最も古く権威のある英国映画協会(BFI)が発行しているSight&Sound誌の発表した「映画監督が選ぶベスト映画」の1位に選ばれた小津安二郎監督が描く、1951年製作の家族の肖像劇。

一昨年前から黒澤明監督作をスクリーンで観る活動(笑)を続けていますが、映画ファンとして押さえておかないといけない、日本を代表する家族劇の巨匠・小津安二郎はスクリーンはおろか、DVDやTVでも一回も拝見したことがありませんでした。山田洋次監督の「家族はつらいよ」で、ラストシーンでは名作「東京物語」が引用という形で登場したり、同じ山田監督作の「東京家族」では「東京物語」の作品そのものを現代翻案という形でリメイクしたりということは知ってはいましたが、じゃあ小津作品そのものはどういう形になってるのかを知らずに感想を述べていました(笑)。それでは今後も困るだろう、、ということで、今回スクリーンでの4K上映の機会に鑑賞してみました。

小津作品そのものは観たことがなくとも、上記山田監督の作品やTVの特集などで、小津作品の雰囲気だけはダイジェストで知っていましたが、実際の観た感じはそれが長尺になったなというくらいにしか感じられませんでした。「ヤンヤン 夏の想い出」「台北ストーリー」のエドワード・ヤン監督に近い、いわゆる家庭劇のいう範疇で淡々と語っていく方なんだなとは思いますが、比較的静なヤン監督よりも更に動きがあまりないように感じます。それもシーンを撮影する画角を一旦決めてしまうと、パンはしますが、あまり背景を動かさない撮影手法に依るところも大きいのでしょう。一番驚いたのは、人物が対面で語り合っているところにいきなりカメラ目線で語るショット(すなわち、語っている相手側の視点に立つショット)に切り替わったりと、少し劇画チックにも感じるところもありました。多弁な人物を動かしながら、こうした細かいテクニックを使うところが名監督たるゆえんだと思います。

半世紀前の作品ですが、お話そのものはとても現代的というか、一人の独身女性・紀子が様々な事柄がありながらも、もっとも適した男性にもらわれていくという話なのですが、独身女性vs既婚女性の少し熱気のこもった激論など、エッセンスは今の時代も通じるものがあります。でも、大前提に、やはり”家”というか、”家族”という大きな幹があって、それがブレることはない。最終的には、時代はこの後、高度経済成長と共に核家族化、単身化が進んでいくことになるのですが、それもちょっと暗示させるような部分があったりと、結構侮れない作品になっています。

次回レビュー予定は、「blank13」です。

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