『サニー/32』:幼児殺害事件の犯人に祭り上げられた女性を監禁したことで起こる殺戮劇。エンタメとして見るには趣味が悪いが、こういう危険もあるんだという教訓劇としてみるべき。

サニー

「サニー/32」を観ました。

評価:★★

新潟のとある町の冬。ここで中学教師をしている赤理は仕事も、私生活もぱっとしないまま24歳の誕生日を迎えていた。その日、彼女は見ず知らずの男2人に拉致・監禁される。拉致した小田は嬉々としてビデオカメラを回し、柏原は赤理のことを“サニー”と呼ぶのだった。”サニー”とは14年前、当時11歳だった小学女児が同級生を殺害した事件の犯人の通称だった。事件発覚後、マスコミが使用した被害者のクラス写真から加害者の女児の顔が割り出され、目を引くルックスから「犯罪史上、最も可愛い殺人犯」とたちまちネットなどで神格化されたのだ。出回った写真での右手が3本指、左手が2本指でピースサインをつくる独特の決めポーズも話題を集め、“32(サニー)ポーズ”と名付けられ、彼女自体も“サニー”と呼ばれるようになった。2人は“サニー”のカルト的信者だったのだ。サニーとされた赤理は、監禁部屋からの必死の脱出を試みるのだが。。NGT48卒業を発表した北原里英主演のサスペンス。監督は、「凶悪」の白石和彌。

「凶悪」、「日本で一番悪い奴ら」などの作品で知られる白石和彌監督による監禁スリラー劇。白石監督作では盟友であり、「凶悪」での演技が印象的なピエール瀧が助演的な役割で重要な役柄を演じていて、リリー・フランキーら雪に埋もれる廃屋に集まってくる一癖も二癖もあるキャラクターたちなど役者たちの怪演は光るのですが、ちょっと趣味が悪いというか、嫌な後味しか残らない作品ですね。狙いとしては、同じような雪ふる山小屋に閉じ込められた人々のクライム劇を描いたタランティーノの「ヘイトフル・エイト」のような世界観を狙っているのかも知れないですが、背景になる幼児殺害事件がすごくリアルに存在するので、廃屋の中での凶気がエンタテイメントに感じられない。ネットアイドルのような現代的なアイテムは出てきますが、むしろ、連合赤軍リンチ事件を扱った若松監督の「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」のような暗い世界観が広がっているように思います。

ただ、こうした一種奇異な世界観でも、今のネット社会では安易に何かを信じてしまって、狂信的な行動に出てしまうということはあるのかと思います。過激派組織IS(イスラミックステート)が、ネットを通じて信奉者を集め、物理的に国境を越えなくても、世界各地でテロ行為を行ってしまうのと同意な恐怖が、本作の世界観には存在しているのです。古いことわざではないですが、ただ単純にネットに書かれたり、上げられる動画の内容を信じてはならないということです。内部告発などもともとインターネット創設の根底にあった、自由とか解放とかの思想に準じた行動を支援するツールにもなりますが、あらぬ情報で人に不快な思いをさせたり、危害を与えたりすることにもなりかねない。本作は極端な例ではありますが、そういう恐怖が私たちの日常にはあるんだと再認識させてくれる作品でもあると思います。

次回レビュー予定は、「レオン」です。

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