『犬猿』:互いを妬み合う兄弟の愛憎劇。それぞれの兄弟の感情とパワーバランスがコロコロ変わっていくさまが面白い!

犬猿

「犬猿」を観ました。

評価:★★★★

地方の印刷会社でコツコツ真面目に働くイケメンサラリーマンの金山和成。しかし、その生活は質素そのもので父親が友人の連帯保証人になって抱えてしまった莫大な借金を返済しつつ、わずかばかりに残るお金を貯金する堅実で地味な生活を送っていた。いつも仕事で訪れる印刷工場で働く幾野由利亜は、そんな和成に密かに淡い恋心をいだいていた。しかし、和成がいつも喋るのは妹の真子だった。彼女は姉の由利亜が切り盛りする工場の事務を手伝いながらも、モデルやグラビア撮影などの芸能活動にも精を出しており、周りの男性陣への評判も上々だった。父親の介護をする献身的な由利亜だが、太っている自分と真反対な真子の存在に、彼女は常に嫉妬心を燃やしていた。そんなある日、和成の兄で強盗事件を引き起こし、刑務所に服役していた卓司が出所してきて、和成のところに転がり込んでくるのだが。。対照的な2組の愛憎がエスカレートし激しく衝突しあう憎愛劇。「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔監督がオリジナルストーリーで兄弟姉妹の複雑な関係を綴る人間ドラマ。

人の心の中は見えず、言葉にしてもらえないと、本当に人には伝わらない、、とはよく言ったものですが、言葉にしてしまうと逆に衝突しか生まないといったことも然りだなと思った作品でした(笑)。通常、友人や知り合いくらいの付き合いだったら、社会的な関係を重視して、本音はいわずに体裁を整えた発言なり、行動なりをするものですが、これがパートナーであったり、家族だったりの距離感であったりしたら、思った本音はついぶつけ合ってしまうもの。まぁ、パートナーだったら、別れたりして関係を解消することもできなくはないんでしょうが、親や兄弟など血のつながった家族になるとこれがなかなか難しい。互いが尊敬しあったり、愛し合ったりという良好な関係ならいざしらず、互いの悪い面しか見えないような関係だったら、もう罵り合いの嵐。普段なら、映画にならないよな些細な言い合いをつぶさに観察しながら、それをドラマティカルな展開へ持っていくというなかなか見応えがある作品になっています。

本作は、卓司と和成、由利亜と真子という2組の兄弟が関わり合っていくお話になっていますが、2組の交錯というよりは、それぞれの兄弟間での関係に重視しているなと感じます。作品は冒頭から互いの嫉妬心が激しくぶつかっていく展開となっています。上手いなと思うのは、ただ単純に互いのことが嫌いということで展開を見せるものの、時々、尊敬であったり、愛情であったり、好きと思える一面もちょくちょく顔を出すところ。まるでトランプの裏表のように、それをクルクルと回しながら、ドラマをコロコロと展開させていく形がすごく気持ちいい。また、卓司と和成の兄弟には暴力、由利亜と真子の兄弟には見た目というような、それぞれの力関係が明らかに違う差みたいなものが、違う一面ではそのバランスが反転するような関係になっていくのも面白い。特に、ご兄弟がいる方は、こういうことあるよね、、と思えることが多々感じられるんじゃないかなと思います。

次回レビュー予定は、「はじめてのおもてなし」です。

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