『笑う故郷』:著名になった作家の思わぬ帰郷劇。人の浅ましさが如実過ぎて不快になるが、ラストの切り返しは凄く見事な作品!

笑う故郷

「笑う故郷」を観ました。

評価:★★★☆

アルゼンチン出身の作家ダニエルは、今ではスペインを拠点として活動をしていた。ノーベル賞を受賞し、輝かしいキャリアをもった彼は世界各地から引く手あまただったが、そういった表舞台に出ることを嫌った彼は全て断りを入れていた。しかし、その中で彼が生まれ育ったアルゼンチンの故郷サラスから、名誉市民の称号を与える招待だけは悩んだ末に受けることを決意し、40年ぶりに祖国の地を踏んだ。町は国際的文化人の里帰りに沸き上がり、彼自身も青春時代を共に過ごした旧友や、初恋の相手などに出会い思い出話を膨らませていく。しかし、様々な町のイベントに参加していくに従って、町の空気は思わぬ方向に転がり始めていく。。2016年ヴェネチア国際映画祭主演男優賞、米アカデミー賞アルゼンチン代表に選出されたヒューマンコメディ。監督は、「ル・コルビュジエの家」のガストン・ドゥプラットとマリアノ・コーンが共同で勤めています。

「笑う故郷」という題名から、ホンワカ心が温まる帰郷物語と思いきや、ちょっと期待をいい意味で裏切ってくれるブラック・ユーモア作品でした。本作を観ていて、どこか似ている作品を最近見たなーと思っていたのですが、少し枠組みは違えど、同じような人の憧れや羨望が妬みや差別に変わっていく、昨年(2017年)見た「ゲット・アウト」に印象がよく似ています。あちらはスリラー&ホラーの色合いが強いので、作風的には少し違うのですけど、名声を得た主人公ダニエルに注がれる町の人々の羨望や尊敬の念が、次第に、俺のおかげで有名になったんだとか、同じ町の出身なのにたかだか有名になっただけで人が変わりやがってとか、俺もちょっとチャンスがあったらお前みたいになれたんだというような、妬みや恨みに近いような感情に変わっていく。きっと本作を観る多くが、主人公ダニエルの視点からモノを見るでしょうから、作品を観続けていくと彼が感じた不快感や居心地の悪さみたいなものを追体験させられる、決して気持ちのいい作品ではないと感じることでしょう。でも、これが本作の肝となっている部分でもあるのです。

僕の出身地にも、学者や国会議員や、アーティストになった有名人はいます。どこの町にもそういう有名人になった人はいるでしょうけど、よく疑問に思うのは、彼ら彼女らはそこで生まれはしたものの、成功したのはずっと離れた土地であることが多くて、今は全く住んでいないのに名誉市民だったり、名誉町民だったりに選ばれるってどうなんだろうなと思ったりします。特に、スポーツ選手なんかは中学、高校で(下手したら、小学生でも)スポーツ留学で県外に出ていくことが多いから、オリンピックで何をしたとか、プロで何の記録を上げたとかに、生まれ故郷が絡むことって、ほんの相乗りに過ぎないですよね。地域振興の意味合いも大きいんでしょうが、違ったことにお金を使ったことがいいのにと思ったりします。

まぁ、そういった愚痴は関係なく、本作は冒頭の和やかな雰囲気から、人や田舎町のドロドロした人の感情が中盤以降に一気に噴出してきて、それをラストで鮮やかに切り返す様が見事の一言。ラスト〇〇分の驚愕、、という宣伝文句はないですし、よく観ていないと何が起こったのか分からないのですが、この反則ともいえるような終わらせ方に映画作品としての巧妙さというか、まるで文学作品のような味の良さを感じてしまいます。ただ、(繰り返しになりますが)観ていて決して気持ちの作品ではないので、ラストの上手さがあっても、僕の評価は少し微妙なところです(笑)。

次回レビュー予定は、「嘘を愛する女」です。

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