『伊藤くんAtoE』:伊藤という1人の男性を通してみる現代恋愛ミステリー。無様な姿を晒したくないという人が、実は一番無様なように思えてくる。。

伊藤くんAtoE

「伊藤くんAtoE」を観ました。

評価:★★★

32歳の脚本家・矢崎莉桜はかつて「東京ドールハウス」というドラマが一大ヒットし、一躍売れっ子になったのだが今は落ち目の一辺倒。自身の著書発表に関連したイベントで募集した恋愛相談をネタにし、何とか新作で再起を図ろうとする。調査のために、恋愛相談に訪れた4人はそれぞれに恋の悩みを抱えていた。相談者Aはある男性に片想いをしているが、自分の扱いをぞんざいに扱う相手に悩み、相談者Bは職場の同僚にストーカーまがいの行動をされて悩み、相談者Cは親友の交際相手を寝取ってしまったことに悩み、相談者Dは相手から処女が重いと言われ、自暴自棄になっていた。彼女たちの相談内容を綴りながら、実は4人の相手は同一人物ではないかと疑う莉桜。実は彼女たちを振り回していたのは、莉桜のシナリオスクールに通う伊藤だった。。柚木麻子の直木賞候補作を「ナミヤ雑貨店の奇蹟」の廣木隆一監督が2017年放映のドラマ版と合わせ映像化した作品。

昨年(2017年)にはドラマ化もされていたという、同名小説の映画化作品。といっても、最近流行りのドラマ版をつなぎ合わせた劇場版ではなく、本作のためにドラマ版のキャストを使って再構成させた作品だとか。僕は原作も、ドラマ版も未見なので分かりませんが、劇場版という未公開映像を盛り込んだ再編集でもなく、お話の続きやサブエピソードを膨らます続編という形でもなく、リブートするならなぜ同じキャストでするのだろう、、と思ったりするんですよね。少なくともドラマのファンは、そちらに引っ張られたりするのじゃないだろうかと思ってしまいます。VFXを盛り込んだ作品なら、予算をかけられるようになってリブートさせるというのは分からなくもないですが、本作は恋愛ドラマだし、、ますます謎です(笑)。

とはいうものの、僕はドラマ版を知らないので、純粋な1本の作品としては結構楽しめました。本作のテーマ的な部分に触れるとするならば、現代社会では結構ぞんざいにされている直感力と無様さに関する作品というところでしょうか。SNS全盛の今は、パブリックなところだけでなく、プライベートなところでも、結構いわゆる”盛る”行為で自分を大きく見せようとすることが多いのかなと思います。とかく人間関係においては自分の能力以上にできることを見せようとすることって、昔からある行為とは思うのですが、これだけ情報が透明化されすぎる時代だと、この”盛る”行為が過剰になって逆に息苦しくなってくるように思うのです。何かの本でちょっと前に読んだのですが、今の社会は直感力というのが結構軽んじられる傾向にあったりするのです。ビジネスの世界でもデータ重視で、直感的に発想したことでも、実行に関しては裏付けが必要だったり、人間関係でも何かと外見であったり、何かできる風に見える人に群がろうとしがちです。でも、自分の経験でも、名を知れた人でも直感的にダメと思う人(自分には合わない人)はいるし、逆にみんなに嫌われていると言われている人が、逆に付き合いやすかったりする人もいる。とかくいろんな要素を考慮しすぎて、本当に”好き”、”嫌い”という直感を信じれない世の中に現代はなってきているのかも。無様な姿を見せたくないと思っている人が、実は一番無様な様を見せているというこの恋愛劇に、僕はとても興味をもって見入ってしまいました。

次回レビュー予定は、「嘘八百」です。

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