『ゲット・アウト』:作品の根底には差別問題を潜ませる良質小品スリラー! よくできた作品だけど、彼らが黒人にこだわる理由がイマイチ腑に落ちない。。

ゲット・アウト

「ゲット・アウト」を観ました。

評価:★★★

アフリカ系アメリカ人のクリスは、付き合い始めて間もない白人の彼女ローズの実家に招待される。典型的な郊外白人一家であるローズの実家に、クリスは緊張感を感じつつも、黒人に分け隔てがないローズの両親の態度に少し落ち着く。しかし、ローズ家のお手伝いやお抱え庭師がいずれも黒人なことに若干違和感は覚えつつも。。クリスは眠れない夜に、ローズ家の黒人たちの奇妙な行動を目撃するが、ローズの母親が禁煙するためとかけた催眠術によって、またも不安感をかき消される。明くる日、亡くなったローズの祖父を讃えるパーティで、どこか古風な黒人の若者を見つけ、またも感じた違和感から彼を携帯で撮影すると、その若者は豹変し、クリスに襲い掛かるのだった。。監督・脚本は、本作が監督デビュー作となるコメディアンのジョーダン・ピール。

コメディアン出身の監督ということで、文字通りのブラック・コメディ作品かと思いましたが、結構本格的なシリアル・スリラー劇といったところでしょうか。この作品、そんじょそこらの安物スリラーとは決定的に違うのは、フィクションといいながらも、1つの骨太なテーマを持っていること。それは、ずばり”人種差別”。それも、先日感想文を書いた「ドリーム」に描かれていた1960年代の黒人排斥運動のような社会ムーブメントの差別問題ではなく、私たちが日常感じている違和感から来る差別といってもいいでしょう。僕自身、外国人観光客が多い京都という街に住んでいて、アジア系はもとい、白人、黒人、中東系やラテン系の人もたまに見かけたりしますが、身体的な特徴は分かりやすいし、それに些細なことでの文化の違いとか見ても、やはり少し目を疑うような光景もなくはないです。もちろん建前的にも、基本的な精神という部分でも、それを差別的に見るということはないですが、やはりおかしいな、変だなという思いは人なので、心の底ではどこか思ってしまう。例えれば、その心の魔みたいなものを拡大鏡で大きく見たのが、本作といえるかもしれません。

なので、本作は表面上はおおらかで、偏見がなさそうな人が見せる心の暗部が、ラストに近づくほど大きくなって見えるところがミソ。僕も障害者として奇異に見られる分だけに、距離を取る人よりも、偏見がないと声高に叫ぶ人のほうが厄介な存在だと思っているので、本作のローズ家の怪しげな感じはのっけから怪しさに満ち満ちて見えます(笑)。実際に、ローズ家を始めとして、この集落に住む白人たち全員が怪しげな陰謀があるという顛末になっていくのですが、(その謎の部分は肝なので、ネタバレしないとして)その陰謀をクリスに対しても、とことんやりまくっていくところが非常に潔い。映画自体は小品なのだけど、ワンアイディアをとことん詰めていくという、この手のハリウッド作品はやはり見応えがあるなと改めて感心します。

ただ、白人たちが結局黒人たちになぜ必要にこだわるかという部分が、あの理由ではいかんせん納得し難いと思うのは僕だけでしょうか? 彼らがこれをしつづければ、結局この集落は黒人街になってしまうけど、、(→これはネタバレかも(笑))。

次回レビュー予定は、「ラストレシピ 麒麟の舌を持つ男」です。

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