『天国と地獄 (4K上映)』:この作品の見どころが登場してくるキャラクター全ての心象が見える前半部。犯人の動機というのが、イマイチ自己都合的に映るんだよな。。

天国と地獄

「天国と地獄 (4K上映)」を観ました。

評価:★★★☆

ナショナル・シューズの権堂は競合が多くなり、利益重視のコスト削減に舵を切る会社に疑問を感じ、シューズ業界で革命を起こすべく、自宅まで抵当に入れ、経営陣の主導権を奪うために自社株買いに奔走していた。その中、突然息子を誘拐したという脅迫電話がかかってくる。しかし、しばらくすると彼の息子は何事もなかったように帰ってくる。いたずら電話だと一蹴しようとしたが、実は息子と一緒に遊んでいたお抱え運転手の息子が間違えて誘拐されたのだった。犯人にそのことを感づかれた権堂は、運転手のために株買いのために調達した5000万を使い、運転手の息子を救うことを決意する。誘拐犯は特急第二こだまに乗り、身代金を受け渡すことを要求するのだが。。エド・マクベイン原作“キングの身代金”を「椿三十郎」の小国英雄、菊島隆三、久板栄二郎、黒澤明が共同で脚色、黒澤明が1963年に製作・監督した刑事もの。

スクリーンで黒澤映画を楽しむという取り組み、今シーズンの第二弾。今回の鑑賞作はあまりに有名な「天国と地獄」。実はこの作品、僕が高専生だったときに、なぜか英語の時間に映画好きな英語の先生による鑑賞会で観た覚えがあります。同じ黒澤映画の「七人の侍」も同じ英語の時間に観たのですが、こちらのほうは実は前半部だけ観て、後半は僕が授業を休んだか、もしくは授業の都合だったのかで、観た記憶がないのです(笑)。なので、今まで僕の中での「天国と地獄」は、第二こだまでの身代金受け渡しシーン前後で止まっているのです。あの有名な白黒映画で一部カラーになる身代金が入った鞄を燃やすシーン(「踊る大捜査線 THE MOVIE」などの作品にも引用されている)や、結局犯人は誰だったのかという、映画の肝になる部分が、今回の鑑賞で知ることができ、ようやく僕のこの作品のもやもやした印象が拭い去った鑑賞となりました。

この作品は権堂がナショナル・シューズの自社株買いで勝負の1手を画策するところから、運転手の息子の誘拐が判明し、悩むところまでが第一部。身代金を出すことを決意し、第二こだまでの受け渡しから誘拐されていた運転手の息子が帰ってくるまでが第二部。そして戸倉刑事らの捜査から犯人逮捕まで至る第三部と大きく三分構成の作品かなと思います。僕が見どころだと感じるのは第一部の部分。今後事業を左右する男たちの駆け引きや、降ったように湧いた誘拐事件で権堂という人物の内面が問われるまで、主に権堂邸内で進む密室劇ですが、人物の心理描写がとてもダイナミックで、とても狭い空間だけで行われているのが信じられないほど。これは作品は違いますが、昨年見た「生きる」のちょうどお葬式の後半シーンと同じような熱気を感じるのですよね。動きはないが、登場人物たちの台詞1つ1つにカメラがダイナミックに動いていくところなどは、それぞれの登場人物たちの心象を表しているようでさすがということを感じます。

それに対し、いささか??なのが捕まる犯人の動機の部分なんですよね。題名の「天国と地獄」と同じように、丘の上に立つハイソな権藤一家を見上げる、地獄のような底辺に暮らす人々の恨みのようなものを代弁しているのでしょうが、やはり後半の独白シーンも犯人側の一方的な思い込みに過ぎないなと感じたりします。昨今の凶悪犯罪もそうですが、自分の勝手な都合だけで人の命を殺めてしまうということは、やはり悲しさという言葉の他にないなということを常に感じてしまいます。

次回レビュー予定は、「ゲット・アウト」です。

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